虹 8
総司は、両手に顔を乗せてボーっと1点を見つめていた。
「おい、そんな間抜けな顔してないで皿運べ」
そんな総司を見て、歳三はキッチンから怒気を含んだ声で呼びかけた。
「・・・・」
総司は、全く反応せずまだぼーっとしている。
歳三はイライラしながら総司に近づくと、総司の頭をバコっと殴った。
「いったぁ〜〜〜〜っ!!」
突然頭を殴られた総司は、涙を浮かべながら頭を抱えてうずくまった。
「さっきっから何度も呼んでんのに何シカトしてんだよっ!」
「うぅっ だって淋しいんですもん」
上目遣いに見上げてくる総司に、歳三は鳥肌が立った。
「セイちゃんがアメリカ帰っちゃって、次こっちへ来るまでの間また歳三さんと2人かと思うと、何だか淋しいな〜と思って・・」
あれから総司とセイは、セイが一時帰国するまでの1週間毎日のように遊びに出かけた。
総司は、家にいても外に出ても常にセイの傍にいた。
当のセイも、それを鬱陶しがる事もなく常に総司に対しては嬉しそうな笑顔で対応していた。
歳三が、2人の間に何かないかとハラハラしていようとも、本人達は全くお構いなしだった。
「お前・・ 一体いくつのガキだ」
歳三は呆れてため息をついた。
「だってぇ〜。 セイちゃん、いつこっちに戻ってくるんでしょう」
「・・・・」
総司を睨みながら見下ろしていた歳三だったが、これ以上総司と話す事に疲れ、諦めて1人で料理を運び始めた。
「お前・・ 言っておくが、絶っっっっ対にセイには手を出すなよ」
「はぁ〜・・・ セイちゃん・・」
全く話を聞いてない総司に、歳三の米神に怒りマークが浮かんだ。
「うわっっつ!!!」
突然かけられた熱湯に、総司は飛び上がった。
「歳三さんっ!! ねねねね熱湯はないでしょう!!!」
「お前見てると腹立つんだよっ! さっさと食えっ!」
総司は、体にかかったお湯をふき取りながら、渋々テーブルについた。
「そういやお前就職はどうすんだよ? そろそろ本気で考えないとマズイだろ」
「そうなんですけど〜・・ 何かこれといってやりたい仕事もなくて・・」
拗ねた表情でそういう総司に、歳三はまた頭をぽかっと殴った。
「いたっ! もうっ 歳三さんたらすぐ殴るんだから〜〜」
「すぐ殴るんだからじゃねぇ! セイと同様、お前も俺が預かってんだよ。 万が一就職も出来ねぇようじゃあお前の親に合わせる顔がねぇだろうがっ!」
「良いですよぅ、もしどうしても見つからなかったら院に進みますから」
「一体幾つまで親の脛かじる気だ。 いくらお前の家が金持ちだからって、もう成人した大人がいつまでも甘えてんなよ」
「・・・」
耳が痛い事を言われ、総司も思わず口をつぐんだ。
本当は自分でも自由にさせてもらっている親には感謝している。
親が経営している会社を継ぐのだろうと誰もが思っている。
しかし、本人には毛頭その気はなかった。
親が作った会社は、所詮親の会社だ。
自分で何かをやりたい。
しかし、何をやれば良いのか全く分からなかった。
高校生の身で既に将来の夢を持っているセイを、総司は尊敬していた。
「焦らせてもしょうがねぇからな。 ゆっくり考えろ。 でもちゃんと考えろよ」
「分かってますよぅ」
結局最後の最後には総司の気持ちを考えて責めることをやめてしまう。
本当に自分は総司には甘いなと、歳三は心の中で苦笑いした。