虹 14
「お前、何しにそうな顔してんだ?」
仕事から帰った歳三は、ソファに生気をなくして横たわっているセイを見つけた。
「想像してたキャンパスライフと現実のギャップに打ちひしがれているの」
「はぁ?」
怪訝な顔で見下ろしてくる歳三を見る事もなく、セイは大きく溜息をついた。
「それより総司はまだ帰ってないのか?」
夕食の用意を手際よく始めながら、歳三は訊ねた。
「うん。 何かサークルの幹部会とか言ってた」
「ふぅん」
「夕食までには帰るって言ってたよ」
「そうか。 それよりお前サークルとか決めたのか? 外泊とかあるようなサークルは認めねーからな」
歳三の言葉に、セイの顔がひきつった。
「ま、急いで決める必要もねーしな。 ゆっくり考えろ」
「ゆっくり考える時間なんてなかったよ」
棘を含んだ声色に、歳三は不思議そうにセイを見た。
「は?」
「考える時間もなく、すでに私の入るサークルは決まってたみたい」
「どういう意味だ?」
歳三の問に、セイはばっと起き上ると、頬を膨らませて歳三を睨んだ。
「な、何だよ」
「トシが総司さんに私の面倒なんて見させるから、大学では私の自由がないのよっ!!」
ドサッ
セイが叫んだ瞬間、リビングのドアの外から何かが落ちる音がした。
セイは、はっとして口に手をあてた。
歳三がドアを開けると、呆然とした表情の総司がそこに立っていた。
足元には、総司のものらしき鞄が落ちている。
「なんだ、お前」
ぷるぷると震えながら目に涙を溜めている総司を見て、歳三は訳が分からず後ずさった。
「せ・・・セイちゃん・・」
しまった・・・
聞かれてしまった・・・
セイは思わずソファの背もたれに隠れた。
総司はドカドカとリビングに入ってくると、セイの隣に立ちセイを見下ろした。
「お、お帰りなさい」
気まずそうに上目づかいに総司を見上げる。
「セイちゃんたら、そんな風に思ってたんですか?」
「あ、いや・・ その・・・」
「セイちゃん、私の事迷惑とか思ってたんですか」
捨てられた子犬のような眼で見る総司に、セイはあわてた。
「そ、そんな訳ないじゃないですかっ!!」
立ち上がると、必死に総司の顔を覗き込んで笑って見せた。
「自由がないって・・ やっぱりセイちゃん家でも大学でも私と一緒なのが嫌だったんですね・・・」
ガックリと肩を落として負のオーラを出している総司に、セイはどうして良いか分からなくなった。
「何を言ってるんですかっ!! 私は総司さんと同じ大学で同じサークルで本当に良かったと思ってますよ」
心にもない事だが、取り合えずこの場を何とかしようと頑張って言葉を選んでいる。
「そんな事、本当は思ってないくせに」
今度は拗ね始めた。
「もう総司さんたらっ! 私なんて楽しみでしょうがないですよっ! ほらっ 何でしたっけ。 あれっ! そうそうっ 新歓イベントの公演! 楽しみだなぁvv」
その言葉に、総司の顔がぱぁっと明るくなった。
「本当ですか?」
「もちろんですっ!!」
総司はセイの手を握った。
「良かったぁ! 今日の幹部会で、正式にロミオとジュリエットに決まったんですよっ! もちろんジュリエットはセイちゃんですっ! そして、ロミオは私に決まりましたからっ!」
キラキラした笑顔でセイを見つめる総司の後ろから、どす黒いオーラを放つ歳三が近づいてきた。
「おい、てめぇ今何つった?」
総司の頭を掌で掴み、自分の方へ向かせた。
「あっ! 歳三さんっ ただいまです! はうっ!!」
とびきりの笑顔でそう言った総司の頬を、歳三は思いっきりはたいた。
「ただ今じゃねぇっ!! まさかセイを、あの鬼畜軍団の中に入れようとはしてねぇよなっ!!」
涙目で頬を抑えながら、総司は歳三を見上げた。
「鬼畜ってっ! セイちゃんを魔の手から守るためじゃないですかっ!」
「お前っ!! 何が危ねぇって、お前のサークルの奴らが1番危ねーじゃねーかっ!」
確かにっ!! その通りっ!!
必死にセイは心の中でそう叫ぶ。
「何て事言うんですかっ! もし万が一何かセイちゃんにあっても、私がいればすぐに助けられますよっ!」
万が一って、何かあるかも知れない事自体おかしいじゃないっ!!
トシ、何とか言ってやってっ!
「・・・・・まあ、それもそうだが」
なーーーにぃーーーーっ!?(クールポコ風に)
納得するの早いだろっ!!
「でしょう? もしセイちゃんが違うサークルに入って、そこに女にすぐ手を出すような男とかいたらどうします?」
「むむっ」
ちょっとちょっとっ! トシッ!?
「セイちゃんの操は私が守りますから」
み、操って!!!
「本当だな」
こら、トシ!(怒)
「本当です! 私が全身全霊かけてセイちゃんを守ります」
何をそんな胸張って誇らしげに言ってるんですか、総司さん・・
しかもトシも納得したように頷くな!
歳三に一縷の希望を託していたセイは、涙を流しながら自分の部屋へと入って行った。
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