虹 13
総司に手を引かれ、訳が分からないままサークルの部屋のドアの前に連れてこられた。
「総司さん、ちょっと待ってくださいよー」
「まぁまぁ、皆セイちゃんの事待ってるんですから」
総司はニコニコしながらセイに振り返る。
「いや、私まだ何に入るか決めてない・・」
セイの言葉を聞き終わらないうちに、総司は思いっきり部屋のドアを開けた。
「セイちゃん連れてきましたよー」
その瞬間、部屋の中からは大歓声が起きた。
セイは、訳が分からないまま部屋の中を呆然と見ていた。
見覚えのある人間もいれば、全く知らない人もいるが、全員が立ってこちらを見て拍手をしたり歓声を上げたりしている。
まさかとは思うが、部屋の中央にはくす球がある。
「そ・・・ 総司さん・・ これは一体・・・」
「ようこそ、わが演劇サークルへ♪」
「は?! 演劇!?」
セイはびっくりして総司を見上げた。
その瞬間、大きな音が鳴り響いた。
その音に思わず部屋の中に視線をうつすと、クラッカーがあちらこちらから鳴り響き、クス球が割れて中からは『祝! 富永セイちゃん入部』と書かれている。
意味が分からない・・・
何なんだこの集団は・・
混乱しているセイをよそに、総司はセイの手を引いて部屋の中へ入った。
すると、部屋の中にいた人間が「わー」っと近づいてきた。
それぞれがセイに対して何だかんだと声をかけてくるが、セイの耳には全く入ってこない。
私のキャンパスライフが・・
楽しいサークルに入って、素敵な男性と知り合って、最高の大学生活を過ごすはずだったのに・・
演劇って・・・(涙)
このサークルからは逃げられないような気がする。
これまで総司のペースにどっぷりはまっているのだ。
セイは、がっくりと肩を落とした。
「いやー、うちのサークル何故か毎年男しか入ってこなくてさぁ」
「そうそうっ! 総司から君が入ってくれるって聞いて、やっとヒロイン役が女の子になると思ってみんなで喜んでたんだよ〜っ!」
「いや・・ 誰も入るなんて・・」
「それにしても本当に可愛いよねぇっ!」
「これでこの前候補に挙がったロミオとジュリエットの公演できるんじゃない!?」
誰か私の話を聞いて・・・
「俺原田って言うんだっ! このサークルで部長やってるから! 宜しく」
そう言うと、原田はセイに手を出してきた。
「あっ! ずるーいっ! 俺も俺もっ! 藤堂っていうんだよ! 宜しくね」
「まてーっ! 俺は永倉っていうんだ。 副部長だ」
「俺もいるんだが・・ 斉藤だ」
次々と手を伸ばす男たちに、セイは心の中で涙を流しながら手を差し伸べた。
「え」
セイの手をとったのは、他の誰でもなく総司だった。
そして、総司は空いている手で男たちの手を次々握っていった。
「てめっ 総司っ!」
「何するんだよーっ!!」
「セイちゃんと手を握っていいのは、私と将来の彼氏だけです」
ニコニコとそういう総司に、一同唖然としている。
「じゃあセイちゃん、悪い虫がつく前に、向こうで入部手続きしましょうね♪」
そういうと、固まっている男たちをよそに、セイの手を引いてスタスタと歩いていってしまった。
「悪い虫は、あいつではないのかな」
「それにしても、あいつの過保護ぶりは異常だよな・・」
「て言うか、あれって過保護とかそういう問題か?」
「いや・・ 本人気づいてないけど、多分あれって・・」
「間違いないだろうな」
斉藤の言葉に、3人は腕を組んでうんうんと頷いている。
空いている席に座った総司は、セイに1枚の紙を渡した。
「はい、これ入部届けです」
「あの〜、総司さん」
「何でしょう?」
総司はニコニコとセイの顔を見ている。
「言いづらいんですが・・ 私入るって一言も・・」
その言葉に、途端に総司の顔が曇る。
「もしかして、嫌ですか?」
その顔はずるいだろう・・
これ以上何もいえなくなってしまう・・・
「嫌って言うか・・ その、他にも色々と見てから決めたいなぁなんて・・」
セイは、上目遣いで総司を見る。
しかし総司はそんな視線には全く動じない。
それどころか、目に涙まで浮かべて逆にセイを上目遣いで見てきた。
「それは、私とは違うサークルに入りたいって事ですか?」
う゛っ・・・
そう来るか・・
「そうじゃなくって・・ 」
更に、総司はセイをじーーーーっとうるうるした瞳で見ている。
「何て言うか、演劇って私今までやった事ないし・・」
セイは、負けじと反論しようとする。
「分かりました。 家でも学校でも私と一緒っていうのがセイちゃんは嫌なんですね。 そうなんですね」
総司は、ほっぺをぷくっと膨らませた。
そして、しくしくと泣き始めた。
セイは、どうして良いか分からずじっと総司を見ていた。
しかし、総司は相変わらず泣き続けている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かりました」
セイがそういった瞬間、総司の顔がぱぁっと明るくなった。
「本当ですか!? わーい♪」
嘘泣きかよっ!!!
そうは思うが、後の祭り。
1度口に出してしまった事を、今更撤回する訳にもいかず、セイはしぶしぶ入部届けにサインをした。
「早速ですが、来月新歓イベントで、公演があるんですっ! セイちゃんにももちろん出てもらいますから」
「はぁっ!?」
「候補としては、ロミオとジュリエットが上がってるんですが、セイちゃんのジュリエット役可愛いだろうなぁ〜」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよっ! 今そんな事言われてもっ」
演劇経験など皆無のセイは、突然の主役に驚いて声を上げた。
「大丈夫! 安心してください。 ジュリエットがセイちゃんなら、ロミオは私がやりますから」
「・・・・・・・。」
そういう問題ではないのだが・・
この人には何を言っても無理だろう。
セイは悟っていた。
何もかもこの人のペースに合わせなければ、この大学とあの家では暮らしていけない。
しかも、そのペースが自分も心地いいと感じてしまっているのも事実。
「・・・・・頑張ります」
もうこう言うしか他にない。
「頑張りましょうねv」
そういってセイの手を握ってにっこり微笑む総司に、セイもつられて微笑んでいた。
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