虹 12
新しいスーツに身を包んだセイは、キラキラした笑顔で鏡の前に立っていた。
「うん、バッチリ」
そう言うと、セイはリビングに向かった。
「おはようございまーす」
「あ、セイちゃんっ! おはようございます!」
歳三が作った朝食を運びながら、総司が笑顔で振り向いた。
「わぁっ セイちゃん可愛い〜っ!」
セイのスーツ姿を見るなり、総司は目を輝かせてセイの元にやってきた。
「もう、総司さん。 そういう事言わないで下さいよ」
まんざらでもなさそうに笑って、セイは総司の腕を軽くたたいた。
「本当ですよ〜。 これじゃあ、今日の入学式でセイちゃん目立っちゃいますね〜」
「うふふっ ありがとうございます♪」
セイは嬉しそうにテーブルにつき、歳三の作ってくれた朝食を食べ始めた。
「うちの大学入ったら、セイちゃんモテるんだろうな〜。 すぐ彼氏とか出来ちゃいそうですよね」
「何だか楽しみですね〜っ」
楽しそうに話している2人を、歳三はギロっと睨んだ。
「言っておくが、大学の間男を作ることは一切禁止するからな」
歳三の言葉に、2人は固まった。
「はいっ!?」
「当然だ。 俺が預かる以上、お前に何かあったら俺の責任になるんだ」
「そんなの嫌だよっ!」
思わずセイは立ち上がった。
「いーや、絶対ダメだからな。 ちょっとでも男の影が見えてみろ。 そいつをボコボコにしてやる」
そう言うと、セイを見上げて意地悪く笑った。
「〜〜〜〜っ!!」
セイは、拳を握り締めて震えている。
「分かったら、さっさと食って行け。 入学式早々遅れるぞ」
歳三はお構いなしに、ぱくぱくとご飯を口に入れている。
セイは、目に涙を溜めて、思いっきり歳三を睨んだ。
「トシのバカーーーーーーーっ!!!!!」
「っく うぅっ」
「セイちゃん〜・・ もう泣かないで下さいよぅ〜」
泣きながらとぼとぼ歩いているセイの手握り、総司は困った顔で大学へ向かっていた。
「だっ だってぇ〜っ せっかくの私のキャンパスライフがぁ〜っ」
えーんと声を上げて泣いているセイを、総司はため息をつきながら見た。
「歳三さんは、セイちゃんの事が大切なんですよ、きっと」
「違うもんっ トシは昔からあぁやって私の事苛めるんだもんっ」
「そんな事ありませんよ? 歳三さんて口は悪いけど、本当はとっても優しい人ですよ。 本当にセイちゃんの事を思ってあぁやって言ってるんですよ」
総司は、何とか大学に着くまでにセイを泣き止ませようと必死だった。
こんな状態で入学式に出れるはずがない。
「すっごいすっごい楽しみにしてたのにぃ〜っ! 絶対彼氏作るって決めてたのにぃ〜っ」
更に涙を流しながら叫ぶセイに、さすがの総司も困り果てた。
「しばらく様子見てみたらどうですか? もしかしたら、そのうち歳三さんも許してくれるかも知れませんし。 それに、セイちゃんに彼氏が出来ちゃったら、私だって寂しいですもん」
「えっ?」
以外な総司の言葉に、思わずセイは泣き止んで顔を上げた。
「あっ だ、だって、もし彼氏出来ちゃったら、私なんてそっちのけでその人とばっかり遊びに行っちゃうでしょう? もっとセイちゃんと色んなところに遊びに行きたいですもん」
思わず発した自分の言葉に、総司は恥ずかしくなった。
セイはそれを聞いてふふっと笑った。
「そうですね・・ 私ももっと総司さんと遊びに行きたいです。 少しの間は我慢します」
セイの笑顔を見て、総司は安心したように笑った。
「良かった♪ じゃあ行きましょう。 本当に遅刻しちゃいますよ」
そう言うと、総司はセイの手を引いて小走りに歩き出した。
入学式も無事終わり、セイは総司との待ち合わせ場所に向かおうとしていた。
構内は、新入生を獲得しようと、さまざまなサークルがテントを張ったりしており、にぎわっていた。
セイは、その中を歩いているだけですごく幸せな気分になってきた。
「うぅ〜っ やっぱり楽しみだなぁ」
「ねぇねぇ、そこの君っ」
突然声をかけられて、セイは振り返った。
目の前には、驚くほどの綺麗な顔をした男性がたっていた。
思わずセイは見とれてしまった。
「新入生?」
にっこりと微笑んだその彼の歯の白さに、セイはクラクラした。
「は、はいっ」
「そうなんだ。 俺、このサークルのメンバーなんだけど、良かったら見学に来ない?」
男性の持っているプラカードを見ると、"スキーサークル"と書かれている。
「スキー・・・ですか?」
「うん、どうかな?」
そう言ってセイを見つめる瞳に、セイは思わずうっとりと見入ってしまった。
「あっ はいっ ぜひっ」
「セイちゃんっ!!!!」
男性に惹かれて、うっかり返事をしそうになった時、自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ろうとした時、腕をぐいっと引かれた。
「そ、総司さん」
振り向くと、そこには少し怒った顔の総司が立っていた。
「セイちゃんっ! 遅いと思ったら、こんな奴につかまって〜!」
「えっ? こんな奴?」
「正樹! この人は、私の大切な大切な人なんだから、気軽に声をかけないでくれるかな」
総司は、男性に向かってほっぺを膨らませながら言った。
「何だ、お前の彼女かよ。 可愛かったから声かけたんだよ」
残念そうに、正樹と呼ばれた男性が答える。
「じゃあ行くから。 またね」
「あぁ。 じゃあね〜っ! 良かったらうちのサークルに来てよね」
そういいながら、ニコニコと素敵な笑顔でセイに手を振った。
セイも、つられて笑顔になって手を振っている。
「総司さん、さっきの人お知り合いですか?」
セイは、頬を赤らめながら総司に尋ねた。
それに気づいた総司は、むっとした表情でセイを見た。
「あいつだけは、絶対にダメですよ! 顔が良いからって騙されないで下さいね」
「え? 騙されるって?」
「相当な女好きですから。 あの顔で何人女の子泣かせてるか分かりませんからね」
それを聞いて、セイは残念そうにうつむいた。
「そうなんだ〜・・」
「セイちゃんっ! 朝話した話はどうしたんですかっ! 早速約束破ろうとしてません!?」
総司には珍しく、怒気を含んだ声でセイに言った。
「あっ・・・ ごめんなさい・・ 何だか大学が楽しそうだったからちょっと浮かれちゃいました」
しゅんとしたセイに、総司は慌てた。
「あっ ご、ごめんなさいっ! そんなつもりじゃあ・・」
尚も落ち込んだ表情のセイに、総司はどうして良いか分からず思わずセイを抱きしめた。
「そ、総司さんっ!」
大学の構内でいきなり抱きしめられたセイは、驚いた。
「だってセイちゃんが変な男に騙されて泣くところ見たくないんですもんっ!」
必死でそういう総司に、セイは嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ ありがとうございます! 以後気をつけます」
それに気をよくした総司は、腕の力を緩めてセイの顔を覗きこんだ。
「良かった♪ じゃあ皆待ってますから行きましょうか」
「えっ? 皆?」
「はい♪ サークルの皆ですよ」
ニコニコと言う総司に、セイは不思議そうに首を傾けた。
「サークル?」
「えぇ、私たちのサークルに入るんですよね? 皆待ってますから早く行きましょう」
「えぇ〜っ!! そんな話聞いてませんよ!? それよりも何よりも、総司さんが入ってるサークル何か知りませんっ!」
びっくりして叫ぶセイに、総司は尚もニコニコと笑っている。
「だって〜っ 入学する前に皆にあったって事は、もう入ったも同然じゃないですかぁ! 何かなんて来れば分かりますよ。 さ、行きましょ」
総司は有無を言わさずセイの手を引いて教室へ向かって歩き出した。
「えぇ〜っ」
セイは訳が分からないまま総司に引きずられるように連れて行かれた。