虹 11


「あれ何かの撮影かしら?」
「さぁ・・ ちょっと変わった人なのかも」

人々の注目を浴びている人物は、到着ロビーの真ん中にニコニコと笑顔で立っていた。
手には「お帰りなさい! セイちゃん!」と書かれ、派手な装飾が施されている大きな画用紙を持っている。

到着出口から出てきた外国人夫婦も、興味津々でその男を見ている。
「A Japanese is interesting・・(日本人は面白いね)」

そんな周囲の目も気にせず、嬉しくて仕方ないといった表情のその男、沖田総司はじっと到着出口を見ている。

「あ〜、早くセイちゃん帰ってこないかな〜」
到着予定時間よりも、2時間も早くからここに立っている。
海外からの飛行機の到着は、遅れがちになるという事をこの男は知らない。


「あっ! 人が沢山出てきたっ! 今度こそあの中にセイちゃんいるかなっ」
ゾロゾロと出てきた人々の中にセイがいないか、必死で目を凝らす。


「あっ!」

人ごみの中に、微かに見えたストレートの黒髪。
その色艶だけで、セイだと認識した総司は、ぱぁっと顔を輝かせた。

「セイちゃ〜〜〜んっ!!」
大声でそう叫ぶと、人ごみに向かって走り出した。

人を掻き分けて目当ての人物までたどり着くと、それがセイかどうか認識する前に抱きついた。

「お帰りなさい!!」
突然抱きつかれた人物は、あまりにびっくりして声が出ないようだ。

総司には分かった。
この抱き心地、この匂い。
全てが懐かしく感じる、大好きなセイだった。

「そ、総司さんっ!?」
やっと状況を理解した少女は、やっとの事で声を発した。

「はいっ! セイちゃんお帰りなさい!」
総司は、セイを抱きしめたまま叫んだ。

「ただ今戻りました! ・・・って、総司さん・・」
セイは、総司の腕の中で苦しそうに言葉を発した。
「何ですか?」
「私たち、すっごい迷惑になってるみたいなんですけど・・・」

セイの言葉に、総司はセイを抱きしめる腕の力を緩めて回りを見渡した。


出口から次々と降りてくる人々は、皆2人を迷惑そうに睨んでいく。
中には、わざとぶつかって行く人もいる。


「あ・・・」
やっと自分のいる状況を理解した総司は、えへへっと照れ笑いして、セイの手を取り人ごみから離れた場所へ移動した。



「長旅お疲れ様でした」
2人は、取り合えずお茶でも・・と空港内の喫茶店に入った。

「いえ、毎回迎えに来ていただいて、ありがとうございます」
そう言うと、セイはにっこり微笑んだ。
その笑顔を見て、総司の顔をほころぶ。

「うわ〜、懐かしい! セイちゃんの笑顔だぁ」
「ちょ、ちょっと、総司さん! 恥ずかしいからそういう事言うのやめてくださいよっ」
セイは周りを見渡して、顔を赤らめている。
「だって、本当に寂しかったんですよ! セイちゃんが帰っちゃってから、歳三さんと2人きりでつまんなくって」
総司は、悲しそうにストローでオレンジジュースをすすった。

「お世辞でもそう言ってもらえると、帰ってきた甲斐がありますね♪」
「お世辞じゃないですよぅ! 本当です! あっ! セイちゃんのお部屋、模様替えしておきましたから。 楽しみにしててくださいね」
嬉しそうにそういう総司に、セイは何となく模様替えの内容が予想出来苦笑いする。
「う・・ あ、ありがとうございます」

「疲れたでしょう? 早速お家帰りましょう!」
総司は、まだ飲み終わってないセイを「早く早く」と急かして、伝票を掴み1人でレジに向かった。
セイは、そんな総司の後姿を見て、ぷっと吹き出した。

きっと、早く自分に部屋を見せたいのだろう。
数日総司と一緒に暮らしただけで、何となく総司の考えている事が分かるようになってしまった。

セイは、急いで残りのジュースを飲みきると、荷物を持って総司の元へ歩いた。






「う・・・ これはまた・・・ すごい事になってますね・・」
部屋に入ったセイは、予想以上の状態に絶句してしまった。

「えへへ〜っ どうです? 気に入って頂けました?」
総司は得意げに胸を張っている。

「えぇ・・ なんか・・・ ぬいぐるみの数が・・」
増えてます?と聞こうとする暇もなく、総司がセイをばっと振り返った。
「気づきました!?」
総司の顔がきらきらと輝いている。

「・・・はい」
セイは、取り合えず部屋の中へ入った。
以前はピンクで統一されていた部屋が、今回は水玉に変わっている。
相変わらずブリブリの部屋には、以前の2倍近くのぬいぐるみが置いてある。

「この縫いぐるみ達はもしかして・・」
「はい! 私が作りました♪」
ニコニコと嬉しそうな総司の顔を見ていると、セイは呆れる事を忘れて思わず笑顔になった。

「うふふっ ありがとうございます! 大切にしますね」
そういいながら、セイが目についた熊の縫いぐるみを手に取った。
首には赤い首輪がつけられており、ハートのアクセサリーに「セイ」と書かれている。
ふとその熊の置いてあった隣を見てみると、少し大きめの熊の縫いぐるみがあり、その首元には「ソウジ」と書かれたアクセサリーがついている。

「ぷっ 総司さん、トシのはないんですか?」
歳三のものらしき縫いぐるみがない事に、セイはおかしくなった。
「だって〜、歳三さんに縫いぐるみの材料をもう買うなって言われちゃって買えなかったんですよぅ」
総司は、ぷくっと頬を膨らませて拗ねた表情をした。


「当たり前だっ! 一体縫いぐるみごときに幾ら使うつもりだっ!」
突然背後から聞こえたドキを含んだ声に、2人は驚いて振り返った。

そこには、青筋を立てた歳三がいた。

「トシ! ただいま〜!」
「歳三さん、いつ帰ったんですか!?」

「今だ。 お前駅まで迎えに来いっつったのに、何で電話にも出ねぇで迎えにも来なかったんだ?」
相当怒っているらしく、表情一つ変えず総司を見ている。

「あ・・  セイちゃんが帰ってきたのが嬉しくって、すっかり忘れてました♪」

バコッ

「いったーーっ!!  とび蹴りはないでしょう!!」
総司は、前のめりに倒れて涙ぐんで叫んでいる。

「うるせぇ! お前がどうしてもこいつを迎えに行くってきかねぇから車貸してやったんだろうがっ! 」

尚も、倒れこんでいる総司の背中を踏んづけながら、歳三は叫んでいる。

「あの〜・・ トシ・・」



「居候のくせして俺様の存在を忘れるたぁ、良い度胸だな」
更に足をぐりぐりしている。

「うわーんっ! 痛いですよぅっ!」


「・・・・」


この2人は相変わらずなんだ・・

セイは、何となく嬉しくなって微笑んだ。