虹 10


歳三が目を覚ますと、総司の姿がなかった。
どこにいるのかと家中を探すがどこにもいない。
今日は土曜で歳三も休みなので、総司と食材の買い出しにでもと思っていた。

不思議に思いながらも、リビングで朝のコーヒーを新聞を広げて飲んでいた。
すると、家の中から物音がする。

音のする方向へ行ってみると、そこはセイが使っている部屋だった。
そっと部屋のドアを開けて中をのぞいた歳三は、思わず目を見開いた。

中では、にやにやと嬉しそうな総司が、せっせと部屋を掃除していた。
そして、シーツやカーテンも新しいものに変わっている。
総司が用意したであろうぬいぐるみも、奇麗にクリーニングされていた。
枕カバーも以前の物とは違う新しいものに替え、その横には沢山のぬいぐるみたちが並べられていた。
ふと視線を感じた総司は、歳三を振り返った。

「あっ 俊三さん、おはようございまーす」
にこにことぬいぐるみ達を抱えたまま、総司は挨拶をした。

「お・・お前何やってるんだ」
「何って・・ セイちゃんがまたここに来る時の為に、部屋の片付けをしてたんですよ? ほら、また新しいバージョンのカバーをつけてみました♪」
総司は得意気にベッドを指差しながら言った。

「・・・気のせいか、ぬいぐるみの数が増えているような気がするが・・
それを聞いた総司の顔が、ぱぁっと明るくなった。

「気づきました!? そうなんですっ! また新しく縫っちゃいました♪ 私からの合格祝いですよ! セイちゃん喜んでくれるかな〜」

「どうだろうか・・」
幸せそうにそういう総司に、歳三は何も言えなくなった。


「これでよしっと♪」
カゴの中に小さな可愛らしいぬいぐるみを沢山詰め、テーブルの上に置いた総司は満足そうに部屋を見渡した。
「これでいつセイちゃんが来ても大丈夫ですね! 早く帰ってこないかな〜、楽しみだな♪」

歳三は、何も言わずそっとドアを閉めた。

自分は総司の育て方を間違えたのかも知れない・・・

元々女にそれほど免疫のない総司は、今まで彼女や仲の良い女友達というのはそれほどいなかった。
総司に関わる女というのは、もっぱら歳三の彼女ばかりだった。

総司の同級生からの話だと、総司は大学でもあの性格のせいか、かなりモテるらしい。
ただ、本人が気づかないのと興味がないだけ。
やっと女に興味を持ったと思うと、妹のように溺愛するようになってしまった。

セイと男と女の仲になられて困るのは、自分だ。
しかし、今の総司とセイの状況もある意味困る。

歳三は頭を抱えながら、ふらふらとリビングに戻り、更に濃くしたコーヒーを口に含んだ。
「セイをこの家に引き取ったのは間違いだった・・・」
はぁっと深いため息をついた。

「歳三さんっ! お買い物へ行きましょう♪」
相変わらず上機嫌の総司は、スキップをしながらリビングへやってきた。

「行っても良いが、ぬいぐるみの材料は買わねーからな」
「えぇっ!? どうしてですか??」

・・・図星かよ

「来週分の食材買いに行くんだよ。 そんな余計なもん買えるか」
歳三の言葉に、ぷくっと頬を膨らませながら総司は自分のコーヒーを入れた。

「そう言えば、最近美帆さん来ないですねー。 喧嘩でもしたんですか」
総司の一言に、歳三の米神に怒りマークが浮かんだ。

「あれっ? もしかして、もう別れちゃったんですか? 相変わらず早いな〜。 ほんの3ヶ月でしたね。 その前は半年で、その前の前は」

ボカッ

「いったぁぁぁぁぁいっ」
突然殴られた総司は、目に涙を浮かべている。


「うるせぇっ! お前には関係ねぇだろっ! それに、俺には次から次に女が寄ってくるんだよ」
「・・ふーん」
「何だ、その目は」
「いえ、別に〜。 じゃあ私はこれ飲んだら出かける支度して来ます」
そういうと、総司はコーヒーを一気に飲み干し、リビングを出て行った。