未来への地図 5


歩けるようになったセイは、毎日病院の中を散歩していた。
元々明るく人に対してよく気が効くセイは、看護婦や入院患者とすぐに仲良くなっていった。

今日もセイは散歩をしていた。
総司が持ってきてくれていた小説を持って、中庭のベンチで日向ぼっこをしながらのんびり過ごそうと思った。

「セイちゃんもお散歩?」
声をかけられて顔を上げると、最近仲良くなった患者の藤堂平助がいた。
「あ、藤堂さん。」
セイは平助を見てにっこりと微笑んだ。

「今日は天気が良くて気持ち良いね。 病室にいると息がつまっちゃうよね」
と、良いながら平助はセイの隣に座った。
平助は、仕事中に怪我をして2週間前に入院してきたと聞いた。
もうすぐ退院が決まっているらしい。

「藤堂さん、もうすぐ退院するんですよね? 良いなぁ〜」
「セイちゃんはまだ退院出来なそうなの?」
平助は、セイの顔を覗き込みながら聞いてきた。
平助の人懐っこい笑顔に、セイの顔も思わず緩む。
「はい。 まだ退院の話は全く出てないですね。 もう怪我は大分良くなってるんですけど。」
セイは、自分が記憶喪失だと言う事は誰にも伏せていた。
特に言う必要はないと思っていたからだ。

「そっか。 もし退院してもお見舞い来ても良いかな?」
平助はにっこりと微笑む。
「本当ですか? 嬉しいです。 ありがとうございます」
セイはその言葉に素直に喜んだ。
「その時には、俺の彼女も連れてくるね! きっと気が合うと思うよ」
と、平助は嬉しそうに話している。
「えー、彼女さんいらっしゃるんですか? 藤堂さんの彼女さんだったら、きっと素敵な人なんだろうな〜。 是非会わせて下さい」
「セイちゃんは? 彼氏とかいないの?」
セイは何と言って答えていいのか分からなかった。
実際は婚約者がいるのだが、記憶がない今、いると答えるのは総司に申し訳ない気がした。
「えーっと・・ いるようないないような・・」
思わず濁してしまった。
「何それー? 微妙な感じなの?」
「あははっ また今度ゆっくりお話しますよ! 今はまだ内緒です」
セイは適当にごまかそうとした。
その後30分ほど2人は話をして、セイは病室に戻った。




「あ、総司さん!」
病室に戻ってみると、総司がいた。
「どうしたんですか? 今日は来る日じゃないし、それにこんなお昼からなんて、お仕事は大丈夫ですか?」
セイは、総司が来た事にびっくりしたが、同時に嬉しく思っていた。
しかし、総司は眉にしわを寄せてどことなく機嫌が悪そうに見える。
「今日はこの近くでプレゼンがあったので、帰りに寄ってみたんですよ」
いつもより低い声で総司は答える。
「そうなんですか・・  総司さん、何か怒ってますか?」
いつもと違う総司の様子に、セイは戸惑っている。

「今どこ行ってたんですか?」
「あ、お天気が良いからお散歩してました」
セイはベッドの横にあるイスに、総司に向かい合わせるように座った。
「まだふらふらして良い程良くなってないでしょう」
「すみません・・  でもずっと病室に閉じこもってるのも息がつまっちゃって・・・」

総司は製の顔を見ず、窓の外を見ている。
「あそこのベンチにいましたよね?」
セイの部屋から見える場所に、先ほどセイがいた中庭がある。
「あ、はい。 そこで日向ぼっこしてました! 今日はお天気も良くて気持ちよかったので」
セイは嬉しそうにさっきの事を話そうとした。
「・・・・・・・・・・・・一緒にいた人は誰ですか? 随分楽しそうに話してましたけど」
「えっ?」
「隣にいた人は誰ですか?」
「入院してる患者さんですよ? 最近仲良くなって、たまにお話するんです。」
セイは、何故そんな事を聞くのだろうという顔で総司に話した。

「ふーん。 男の人と仲良くね」
総司はかなり不機嫌そうに言う。
「え、あ、違います! そういう意味じゃなくて!」
セイは、やっと平助との事を総司が勘違いしてる事に気づいた。
「藤堂さんには彼女さんいますよ! もうすぐ退院だっていってて、今度一緒にお見舞いにも来てくれるって言ってたし」
セイは必死に弁解しようとする。
「・・・お見舞いまで来るって約束したんですか」
と、総司はため息をつきながら言った。
「総司さん、何か勘違いしてませんか?」
「別に勘違いなんかしてませんよ。 ただ、セイは誰とでもすぐ仲良くなれるんだなと関心してるだけです。」
その言葉にセイはカチンときた。

「どうしてそんな言い方されなきゃいけないんですか? 患者同士でお話してただけじゃないですか!」

総司はすっとその場に立ち上がった。
「そうですね。 そんな事まで私がとやかく言う事ではないですよね。 すみません、私はこの後も会社に戻らないといけないのでもう行きます。 じゃっ」
といって、総司は病室を出ようとした。
「あ、総司さん!」
セイの呼びかけも無視して、総司は病室を出て行ってしまった。