未来への地図 17
「総司さん! ”見ざる聞かざる言わざる”がいます!」
「あははっ 本当ですね」
総司は、セイを連れて日光へ来ていた。
本当はセイを連れて遠出でもと思っていたのだが、セイがなぜか近場でのんびりしたいと言ったので、以前一緒に来た日光へやってきた。
前に来たときは、雨で寄れなかった日光東照宮へ来たのだ。
その時、行けなかった事をとても残念にセイが思っていたことを思い出し、再度ここへくることにした。
当然セイはその時の事を覚えていないが、これだけ喜んでくれているのに、総司はとても嬉しく思っていた。
「一緒に写真撮りましょう! ちょっとあの人にお願いしてきますね!」
セイは嬉しそうに、近くにいる年配の女性に声をかけに行った。
その様子を、総司はほほえましく見ていた。
記憶をなくす前のセイは、総司の前では高校生の時家庭教師をしていた生徒のままで、とても甘えん坊だった。
それが、記憶を失くしてからは、総司や母親に遠慮してかあまり甘える事はせず、どこか気を使っているような感じがしていた。
なのに、ここに来たセイは、無邪気に走り回っている。
以前のセイを見ているようで、総司は心底嬉しかった。
「わ〜♪ 総司さんとの写真なんて嬉しいっ! 大切にしますね!」
そう言って、女性から受け取ったカメラを胸に抱きながらとびきりの笑顔で総司を見上げた。
「セイとの写真なんて、今までも沢山撮りましたよ? 帰ったら見せてあげますよ」
「違います! 今までの写真じゃなくて、今の私と総司さんとの写真じゃなきゃだめなんです」
そう言うと、セイはぷくっと頬を膨らませて総司を見上げた。
「ふふっ そんな事言って、私を喜ばせてどうするんですか」
あまりの嬉しさに、総司は思わず照れ隠しの言葉を発してしまう。
「あっちに美術館あるんですね。 見に行ってもいいですか?」
パンフレットを見ながら、総司に尋ねるセイに総司はにっこりと頷くと、セイの手をとって歩き出した。
「あ〜、本当に幸せです」
旅館にやってきた2人は、夕飯を終え庭を散歩していた。
「どうしたんですか? 急に」
お風呂上りで浴衣を着ているセイは、妙に色っぽく見えた。
「だって、前から来たかった場所に総司さんとこうして一緒にまた来れたんですもの」
そう言ってにっこりと総司を見上げるセイを、総司は驚いた顔で見た。
「セイ? 前から来たかったって・・ もしかして」
「え?」
総司の質問に、セイは意味が分からず首をかしげて見つめ返した。
「あなた、もしかして記憶が?」
「私、何か言いました?」
セイは、自分が発した言葉が何かおかしかったのかと宙を見て考える。
「今、前から来たかった場所って・・」
「あっ・・ 本当だ。 どうしてだろう? 何故だかそう思ったんです」
セイは驚いて口元に手を当てた。
「じゃ、じゃあ記憶が戻ったわけじゃ・・」
「すみません・・」
申し訳なさそうに上目遣いに総司を見るセイに、総司は少しがっかりした顔になった。
「そ、そうですよね・・ でも無意識にそう感じたという事は、もしかしたら記憶が戻る日が近いという事かも知れませんね」
「・・・」
セイはしゅんとして下を向いてしまった。
「どうしたんですか?」
「いえ・・ やっぱり総司さんは今の私よりも、前の私の方がいいのかなって思って・・」
セイの言葉に、自分が先ほど露骨にがっかりした表情をしてしまった事を悔いた。
「あ、ご、ごめんなさいっ! そういう訳じゃないんですっ!」
必死に取り繕うとするが、セイの表情は晴れない。
「本当にすみません。 傷つけてしまいましたね・・」
「・・・」
セイは何も言わず総司の元からゆっくり歩き出した。
「セイ・・」
力なく呼び止めるが、セイは立ち止まらない。
総司は、何を言っても言い訳にしかならないと思い、諦めてセイの後を追った。
その後部屋に戻った2人だったが、気まずい空気のまま一言も言葉を交わさないでいた。
セイに記憶が戻れば良いと心底願っている。
それでも、今のセイの事も以前と同じように愛している事は確かだ。
「セイ・・?」
先ほどから膝を抱えてぼーっと1点を見つめているセイに、総司は恐る恐る声をかけた。
「・・はい」
こちらを見ないまま、元気のない返事をする。
「さっきは・・・ すみませんでした」
「・・・」
「やっぱりセイの記憶が戻れば良いなって思ってます」
総司は、言葉を選びながら話し出した。
「でも、今のあなたの事も大好きですよ。 これは本当です。 信じて下さい」
「・・・」
必死でセイに訴えようとするが、セイは反応を示さない。
「だって・・ 今のあなたが好きなのは、今までのセイとの思い出があるからなんですもん。 記憶をなくしたセイだけが好きだなんて、今までのあなたと過ごした日々を否定することになるじゃないですか」
「・・私、バカみたいですね・・」
「え?」
突然話し出したセイに、総司は顔を上げた。
「だって、自分に嫉妬してるんですもん。 何かおかしい」
そう言うと、自嘲気味に笑った。
「セイ?」
「記憶をなくす前は、総司さんとどんな風に過ごしていたのかなって良く考えるんです。 私は前と同じように総司さんに対してちゃんと出来てるのかなって不安にもなるんです」
セイの言葉に、総司は胸が締め付けられるような感じを受けた。
「私大丈夫ですか? 総司さんの彼女としてちゃんとやれてますか?」
総司は何も言わずセイに近づいた。
そして後ろからぎゅっとセイを抱きしめた。
「総司さん?」
突然抱きしめられたセイは、驚いて総司を振り返った。
「私にはもったいないくらいですよ。 本当に」
そう言って、セイの頬にちゅっとキスをした。
セイは、頬をほんのり赤くして微笑む。
「ふふっ ありがとうございます」
「じゃあ、寝ましょう。 今日も、あなたを抱きしめたまま寝ても良いですか?」
「もちろんです」
その言葉を聞いて、今度は総司はセイの唇に自分の唇を重ねた。