>未来への地図 14
「じゃあ行ってきますね、セイ」
「はい 行ってらっしゃいませ、総司さん」
セイが、総司にカバンを渡した。
それを受け取りながら、総司はセイの頬にチュッと行ってきますのキスをした。
セイは、ほんのり赤くなりながら、微笑んだ。
「帰る時にまた電話しますね」
そういうと、総司は家を出た。
家に残ったセイは、総司の出て行った玄関のドアを見ながら、余韻にひたっていた。
何て幸せなんだろう。
記憶をなくした自分を、こんなにも大切にしてくれる。
これから毎日自分の元へ帰ってきてくれる。
その事が、今のセイにとっては何よりも幸せな事だった。
セイは、ふぅっと息を吐くと、早速掃除と洗濯を始めようと腕まくりをした。
一通り家事が落ち着いたところで、セイは支度をして家を出た。
買い物をしようと、総司に教えられたバス停へ向かった。
今のセイには、全ての事が新鮮に思える。
不安もない訳ではなかったが、自分には総司がついていると思うと、不安よりも楽しい事のほうが多い。
何度記憶を取り戻そうと考えても、全く以前の事は思い出せなかった。
自分がどんな風に総司に接していたのか、総司もどんな風に自分に接してくれていたのか。
気にはなるが、思い出せないのならこれから総司との思い出を作っていけば良いのだ。
セイはバスの窓の外を見ながら、総司の笑顔を思い出して幸せな気分に浸っていた。
「あの〜・・」
突然かけられた声に、セイはびっくりして振り返った。
自分が座っている席の前に、同じくらいの年の女性が立っていた。
「富永セイさん・・ですよね?」
「え? あ、はい、そうですけど・・」
セイの返事を聞いた女性の顔が、ぱぁっと明るくなった。
「やっぱり! セイ! 久しぶり〜っ! 私だよ、久美!」
「久美・・さん?」
「もーっ、とぼけちゃってぇ! 元気だった? すっごい偶然だねっ」
セイは、久美と名乗る女性に戸惑いながら、何て答えて良いか分からずに固まってしまった。
「何〜? 本当に忘れちゃった?」
セイの態度に、久美は首をかしげた。
「すみません・・ 私記憶をなくてて・・ 私とあなたはお友達だったんですか?」
セイの事を知っているようなので、隠す事も出来ずセイは正直に話した。
「え・・ うそ」
「すみません・・・」
セイは、申し訳なさそうに頭を下げた。
セイは、久美に誘われて降りる予定だった場所にあるカフェに来ていた。
「じゃあ、私と久美さんは高校の時の同級生なんですか・・」
「久美さんなんて呼ばないでよー、久美で良いよ」
久美は、人懐っこい笑みを浮かべた。
「あ、ごめんなさい・・」
「あと、敬語もやめてよ〜! 何かこっちまで緊張するじゃん」
「え・・ あ・・・ ごめんなさ・・ ごめん」
久美とは高校の同級生で、3年の時は同じクラスだった事を話してくれた。
大学はお互い別々になり、同窓会で数回会ったがその後連絡を取る事も少なくなり、だんだん疎遠になったという。
「セイ昔から奇麗だったけど、更に奇麗になったね〜」
久美の褒め言葉に、セイはほんのり頬を赤らめた。
「え、ありがとう」
「あっ! そういえば、沖田先生とはどうなったの?」
「えぇっ!?」
思いも寄らぬ言葉に、セイは思わず声を上げた。
「あ、そっか。 記憶がないなら覚えてないのかな・・ 高校の時家庭教師でついてた沖田先生って人の事、セイ好きだったんだよ。 卒業してから付き合ったって噂で聞いたんだけど・・」
総司が自分の家庭教師だったことは、総司から聞いていた。
しかし、高校の同級生にそんな話を自分がしていたと聞かされ、恥ずかしくてセイは耳まで赤くなった。
「あれ? その反応は、もしかして今も続いてるの?」
久美は嬉しそうに微笑んだ。
「あー、うん。 今一緒に住んでるんだ」
「うそぉ! 良かったねぇ! あの頃セイ沖田先生のこと大好きだったもんねー!」
自分の知らない過去を久美の口から聞かされ、更にセイは恥ずかしくなった。
「沖田先生って優しい人だってセイ良く言ってたもんね。 例え記憶がなくてもセイの事見守ってくれてるなんて、良い人選んだね」
久美は何気なく言ったのだろう言葉に、セイは心から嬉しくなった。
「ありがとう!」
その後、セイと久美は他愛もない話をし、連絡先を交換しあった。
「私もこの近くに住んでるし、専業主婦で暇なのー。 いつでも連絡してね」
「ありがとう。 私も自分の事知ってくれてる人に会えて嬉しかった」
2人は微笑み会った。
「じゃあまたね♪」
「うん!」
久美と別れたセイは、夕飯の買い物へ行くため店を探した。
久美に対しての記憶ももちろん今のセイにはなかったが、とても気持ちの良い人だった。
きっと学生時代は仲が良かったのだろう。
自分の過去を知る人間と会えた事に、セイは嬉しくなった。
もらった連絡先が書かれた紙を、カバンにしまい、足取り軽く歩き出した。