未来への地図 13
「お義母さん、ようこそおいで下さいました」
急いで髪を何とかセットした総司は、何事もなかったように洗面所から出てきた。
「総司さん、突然来てしまってごめんなさいね」
「いえ、お義母さんならいつでも大歓迎ですよ」
必死で平然を装って話している総司に、セイは吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。
「まぁ、この短期間でこれだけの家具を揃えたの?」
リビングに入った瞬間、リンが驚いて声を上げた。
「はい、全て昨日搬入しました」
「そう、良く間に合ったわね」
2人の会話を、不思議そうに見ているセイに、総司がふふっと笑って説明をした。
「ここのマンション買った時、お義母さんに一緒に来てもらったんですよ」
「えっ そうなんですか?」
「モデルルーム見る時も、契約する時も、そして家具を買うのも付き合ってもらったんです」
照れくさそうに言う総司を、セイは何も言えず見ている。
「本当は、そこの和室をお義母さんに使ってもらって一緒に住んでもらうつもりだったんですけど、断られちゃいました」
「えっ」
総司の言葉に、セイは驚いてリンを振り返った。
「あら。 だって最初から私がいたら、せっかく2人きりの生活が台無しでしょ? それに、まだ私は1人で大丈夫です。 将来お世話になるかも知れませんけど、今はまだ誰のお世話にもなりたくないのよ」
「お母さん・・・」
記憶がなくても、やはり母親の事は心配になって当然だ。
「そんな顔しないで、セイ。 ちょくちょく遊びに来てくれれば、それだけでお母さんは嬉しいのよ」
リンは、セイの肩をぽんぽんと叩いて微笑んだ。
「あ、お母さんお昼はまだですか?」
ふと時計を見た総司が、リンに訪ねた。
既に12時半になってしまっている。
2人にとっては朝ごはんになるのだが、そんな事リンには口が裂けてもいえない。
「まだなの。 ここでご馳走になっても良いの?」
「もちろんです! 私が何か作りますから・・・」
総司がそこまで言ったとき、セイが「私がっ!」と手を挙げた。
「え、だってセイあなた・・・」
「記憶がなくても、通常の生活の記憶はちゃんとあるんです。 料理も多分大丈夫だと思います」
「じゃあ、セイの料理を頂こうかしら」
「じゃあ、ゆっくり座って待ってて」
と言うと、セイは嬉しそうにキッチンへ行き、冷蔵庫を開けて何を作ろうか考え始めた。
その様子を、2人は微笑ましい気持ちで見ていた。
「総司さん、聞いても良いかしら?」
ソファに座ってお茶を飲みながら、リンは小声で総司に話しかけた。
「え、あ、はい」
改まった口調に、総司も緊張する。
「言いづらかったらごめんなさい。 セイとの結婚はどうするの?」
「来月予定していた式は、キャンセルしたのは言いましたよね?」
リンはうなずいた。
当初予定していた結婚式は、セイが事故に遭い、記憶を失くした直後に既に解約してしまっている。
「今後、セイが記憶を戻すまで、私は待つつもりでいます」
それを聞いたリンは、悲しそうに微笑んだ。
「でも、もし記憶が戻らなければ?」
セイの記憶が一生戻らない可能性だってあるのだ。
「もし、この先戻らなければ、セイの気持ちを聞いて結婚しようと思います。 ただ、今すぐはセイもそんな気持ちにはなれないと思うんです」
「そう。 あなたには苦労をかけるわね。 本当にありがとう」
今日ここへ来た目的は、総司にこれまでの事と、この先の事のお礼を言うためだった。
昨日退院を総司に任せたのも、自分が行くより総司が行くほうが、今のセイにとっては心強いと思ったからだ。
「とんでもない。 私がセイといたいんですから。 こちらこそ、記憶がない状態で同棲を認めていただいた事に、本当に感謝しています」
そういうと、総司は深々と頭を下げた。
そして、2人で顔を合わせて微笑みあった。
「あー、何? 2人でー」
そこへ、料理を運んだセイがやってきた。
「あら。 内緒話よ」
リンが意地悪く笑った。
「そうですよ。 私とお義母さんだけの秘密の話なんですから」
そういう2人に、セイはぷくっと頬を膨らませた。
「ひどい・・ 私にも教えて下さいよ」
「あっ、セイ料理運ぶの手伝いますね」
総司は立ち上がり、キッチンへ向かった。
「総司さんったらっ!!」
セイも慌てて総司の後を追う。
リンは、2人のやり取りを見ながら笑っていた。
記憶をなくす前も、このようなやり取りをしょっちゅう見ていた。
記憶をなくそうがなくさまいが、この2人は一緒にいるべきなのだ。
「お母さん、飲み物は?」
「お茶をもらっても良い?」
「はーい」
総司とセイは、仲良くお茶を入れ始めた。
リンは心の底から2人に幸せになってもらいたいと願った。