未来への地図 1


バタバタと慌しく走る足音が聞こえてきた。
バンッと勢い良くドアが開く。

「セイ! セイはっ!?」

病室に駆け込んだ総司が目にしたのは、全身を包帯で包まれてベッドに寝かされているセイと、
その傍らで泣いている彼女の母親だった。


総司は仕事中、セイの母親から連絡を受けた。
セイが交通事故に遭ったという。
連絡をもらった時は、まだ病院へ搬送中だった為詳しい症状など聞く事が出来なかった。
総司は上司の土方に事情を話し、仕事を抜けて急いで病院へ駆けつけた。


「総司さん・・」
セイの母親のリンがが泣きはらした目で総司を見上げる。
総司は恐る恐るセイのベッドに近づいた。
頭には包帯が巻かれており、顔にも傷が見られる。

「セイは・・・ 大丈夫なんですよね?」
震える声でリンに尋ねる。

「まだ分からないの・・  全身を強く打っていて・・・  今生きている事も奇跡だって」

総司の目の前が真っ暗になった。

「そんな・・・」

総司は、手を伸ばしセイの顔を優しく包みこんだ。
「セイ・・・」


今晩セイとは待ち合わせをしていた。
なかなか休みが取れない総司に合わせて、挙式の打ち合わせを夜にしてもらい行く予定だった。

セイとは付き合い始めて3年。
2ヶ月前にプロポーズした。
セイもすごく喜んでくれた。
子供は出来るだけ沢山欲しいねと言い合っていた。

プロポーズしてからは、仕事の都合で2〜3週間に1度ほどのタイミングでしか会えなかった。
セイに今日会うのも、2週間ぶりだった。
とてもセイに会うのを楽しみにしていたのに、こんな形で会うとは。


「総司さん。 申し訳ないんだけど、セイの入院の支度をしに1度家に戻りたいんだけど良いかしら?」
セイの母親はふらふらと立ち上がり帰る用意を始めた。
「あ、はい。 私が看てますので。 気をつけて帰ってください」
「ありがとう」
母親は力なく微笑んで病室を出て行った。


セイを2人きりになった総司は、先ほどまでリンが座っていたイスに座り、セイの顔を見つめた。
半年後には結婚式を挙げて、幸せになるはずだったのにどうしてこんな事になってしまったのか。
総司はそっとセイに近づき、頬に優しくキスをした。
『どうか助かりますように。』
セイの手を握りながら、必死で祈った。



その後母親が戻り、総司も職場に戻らなければならなくなったので、病院を後にした。
職場に戻ると、土方が心配そうに声をかけてきた。
「あいつの様子はどうなんだ?」
「まだ分かりません。 意識もまだ戻ってないので・・」
「そうか・・・ 何かあれば何でも言ってくれ。 力になるから」
総司は、土方からの優しい言葉を聞いて、涙が出てきた。
「こっちへ来い」
土方は総司の腕を掴み、誰も居ない会議室に連れてきた。
「あんなとこで泣くな、みっともない」
そう言われても、総司の涙は止まらなかった。

土方とは、大学の頃からの先輩後輩の仲だった。
総司は、セイが高校の時アルバイトで家庭教師をしていた。
その為、土方とセイは面識があり、結婚式でもスピーチをしてもらう予定でいた。

「あいつの事だから、ただでは死なねぇよ。」
「そう・・・ですね」
「何かあれば、いつでも病院へ行け。 フォローは俺がやってやる。」
総司は土方を見てやっと微笑んだ。
「ありがとうございます、土方さん」


その日、総司は仕事を終えて再度病院へ行ったが、やはりセイはまだ眠ったままだった。
「お母さんは1度家に帰って休んでください。 お疲れでしょう?」
総司は、心身共に疲れきったセイの母親を気遣った。

「家に帰っても、セイの事が心配で眠れそうにないから・・」
リンは、悲しそうな顔で答えた。
セイは母1人子1人の母子家庭で育った。
その為、家に帰ってもリンは1人になってしまうのだ。
「それでも体は休まります。 私は明日土日で仕事が休みなので今日は私が看てますから」

「・・・そうね。 じゃあ何かあったら連絡もらえるかしら?」
リンは立ち上がった。
「もちろんです。 すぐに連絡します。」

リンがふらふらと病室を出て行く。
総司はリンを1人にしても大丈夫だったのかと心配したが、ここで寝ないでセイを看るよりは、
家で休んだほうが良いだろうと思った。

総司はセイの横に座り、会社から持ち帰ったノートPCを立ち上げた。
本当なら、今日も残業するほどの仕事があったし、明日も休日出勤するつもりだった。

コンビニで買ってきたパンを食べながら、資料を広げて仕事をし始めた。
夜の病室はシンと静まり返っており、総司のPCを叩く音だけが響いていた。



仕事もひと段落つき、総司が何気なく時計を見る。
夜中の3時になっていた。
セイの顔を見ると、相変わらず良く寝ている。
総司はセイの寝顔を見ているうち、うとうととし始めた。