コンビニの店員さん (付き合い始め編)



「そうなんです。 これから急患が入る予定で・・・  はい、そうなんです。 本当にごめんなさい。 またこの埋め合わせは必ずしますので・・ ありがとうございます。 ではおやすみなさい」
そう言って、電話を切った。
看護婦になって3年目の富永セイは、切った電話を見つめた。
電話の相手は、付き合いだしてまだ半年にもならない彼氏の沖田総司だった。

看護婦のセイは、急に患者が入ると帰れなくなる事も少なくはない。
それに彼氏である総司も、コンビニでアルバイトをしながら司法試験を受ける為に勉強で忙しいようだ。
特に、試験まであと1ヶ月を切ったこの時期、会える時間はとても少ない。

「楽しみにしてたのにな・・」
総司の顔を思い浮かべながら、つぶやいた。
前回の約束の時は、総司の模試と重なって会えなかった。
その前はやはりセイの仕事で会えなかった。
もうどのくらい会ってないんだろう?

「ちょっと富永さん! 患者さん着いたわよ!」
先輩の看護婦が、呼びに来た。

「あ、はい!」
携帯の電源を切り、急いで先輩の後をついて走った。





「お疲れ様」
急患の緊急手術が終わり、日直だった看護婦達がナース室に帰ってきた。

朝から働きづめのセイは、へとへとになりながらどかっとイスに座った。
「お疲れ様です・・」
「大丈夫? 富永さん」
「はい・・・ でもさすがに疲れましたぁ」
先輩が、セイにコーヒーを入れてくれた。
「はい、どうぞ。 これ飲んで一息ついたら今日はもう帰りなさい」
「ありがとうございます」
セイは、受け取って一口飲んだ。

「美味しいです」
時計を見上げると、既に夜中の3時を回っていた。

明日は宿直。
少しくらい寝坊しても大丈夫だ。

セイは、同僚の看護婦達に挨拶をし、ロッカーへ行き着替えを始めた。
携帯の電源を入れると、総司からメールが入っていた。

『遅くまでお疲れ様。 ゆっくり休んで下さいね。 おやすみなさい。』
セイは、にっこりと微笑んだ。
もう既に寝ているだろう。
今日はメールも電話も控える事にした。

時間も遅くなり、電車もない。
仕方なくタクシーで家まで帰った。

セイの住んでいるマンションの1Fにあるコンビニでは、総司がアルバイトをしている。
前は良く、セイの帰る時間に総司が仕事に入っていたのだが、最近は勉強に忙しいらしくあまりバイトにも入っていないらしい。

いつもの癖で、コンビニの中を覗いてしまう。
知らない男性がレジにいた。

「やっぱりいないかぁ・・」
今日は会う約束だったのだからいないのは当然なのだが、いなかったことにセイは、がっかりした。
それでも、何も食べていないセイは、ご飯を買おうと思いコンビニに入る。
総司がバイトに入っている時には、セイの顔を見るといつもの笑顔をセイに向けてくれる。
それだけで、セイは疲れが取れるような気がするのだ。
そして、セイが好きなお弁当をこっそり取り置いてくれている。
やはり総司のことばかり考えてしまう。

会いたいなぁ・・・


そう思いながら、適当にお弁当とお茶を買い、お店を出た。


とぼとぼと歩きながらエントランスに入った瞬間、強い力で腕をつかまれた。
驚いて振り返った瞬間、思いっきり抱きしめられた。

「!!」
痴漢!?と思い叫ぼうにも、ぎゅうっと抱きしめられている為、声が出せない。

どうしようっ! 誰かっ!

そう思ったとき。

「やっぱり富永さんだぁ!」

え・・・・

聞きなれた、大好きな声が頭の上から聞こえた。

抱きしめられていた腕が、ふっと緩んだ。
見上げると、会いたくてしかたがなかった人物の顔がそこにはあった。

「沖田さん・・」
あまりの嬉しさと驚きで、名前を呼ぶのが精一杯だった。

「さっきうちのお店来たでしょう? バックスペースにいて、ちらっと監視カメラに富永さんが写った気がしたんですけど、急いで出たらもういなかったから追いかけて来ちゃいました」

にこにこと微笑みながらそういう総司を、セイは呆然と見つめている。

「あれ・・・ どうしました?」
反応がないセイを、総司は不思議そうに覗き込んだ。

すると、いきなりセイはポロポロと涙を流し始めた。

「えぇっ!? なになになになに!? どうしました!?」
泣き始めたセイに、お驚き総司は思わずセイから離れてしまった。

「ご、ごめんなさい! いきなり抱きついたのが嫌でした!?」
急にオロオロし始めた総司に、セイは泣きながらふふっと笑った。

「違うんです。 今日すっごく疲れてて・・ すっごく沖田さんに会いたかったんです。 そしたら会えたから・・ すっごく嬉しくて・・」
それを聞いた総司の顔も、嬉しそに緩んだ。
「私も、富永さんがもしかしたらコンビニ寄ってくれるかもって思って待ってたんですよ。 会えて良かった」
「でも、今日お休みだったはずじゃあ・・」
「本当は人が足りなかったんですけど、富永さんに会いたくて無理やり休みにしてたんです。 でもお仕事だって言うから、やっぱり入っちゃいました」
「え・・ 私の為にわざわざお休みにしてくれたんですか?」
セイは申し訳なさそうに言った。
「違いますよ、自分の為でもあるんです。 私が富永さんに会いたかったんです」
それを聞いたセイの顔は、ほんのり赤くなった。

「富永さん、疲れてるんでしょう? もう4時ですもんね。 早く帰って寝たほうが良いですよ」
腕時計を見ながらセイにそういう総司を、セイは淋しそうに見つめた。
「はい・・」
「? どうしたんですか?」
「いえ・・」
せっかく会えたのに、もうお別れなのかと思うと、セイは淋しくて仕方がなかった。

悲しげに下を向くセイを、困ったように見た。

「富永さん、明日のお仕事は?」
「えっ?」
「もし明日・・と言ってももう今日ですけど、朝からお仕事じゃなければ、バイト終わってからちょっとだけ会えませんか?」
みるみるセイの顔が綻んでいく。
「はいっ! 明日は宿直なので、全然大丈夫です!」
「良かった。 でも、ちゃんと寝ないといけないから、本当に少しだけですよ? じゃあ、終わったら電話しますから待っててもらえますか?」
「楽しみに待ってます!」
嬉しそうに言ったセイにつられて、総司も微笑んだ。
そして、キョロキョロと周りを見ている。

「? どうしたんですか? 沖田さん」
そう訪ねた瞬間、セイの唇に総司がそっと口づけをした。

「!!」
「ふふっ すみません。 富永さんの笑顔見てたら我慢できませんでした」
セイは恥ずかしそうに口に手を当てて真っ赤になっている。

「じゃあ、まだ仕事残ってるので戻りますね。 また後で!」
そういうと、総司はお店に向かって走っていった。

セイは、少しの間その場から動けなかった。

こんなに人を好きになった事が、今までにあっただろうか。
総司の言動1つ1つにドキドキしてしまう。

セイはふぅっと息を吐くと、この後総司と会える事の楽しみに思いながら、足取り軽く家に帰った。