コンビニの店員さん
看護婦になって半年の富永セイは、覚える事も多く毎日へとへとだった。
ずっと夢だった仕事に就け、頑張り屋のセイは人並み以上に熱心に仕事を覚えようとしていた。
家に帰ると疲れてお風呂に入って寝るだけの生活が続いている。
彼氏もいないし、最近は忙しくて友達とも会っていない。
職場である病院と家との往復の毎日だった。
でもそんなセイには密かな楽しみがあった。
自宅があるマンションの1Fのコンビニにちょっと気になっている店員さんがいるのだ。
自炊する時間も気力もなく、毎日そのコンビニでお弁当を買っているうち、顔を覚えてしまった。
今日も仕事を終え、コンビニにやってきた。
「いらっしゃいませ」
いつもの店員さんが笑顔で挨拶してくれる。
名前は沖田さんというらしい。
ちゃっかり名札でチェックしている。
沖田さんもセイの顔を覚えてくれたのか、最近レジに行くと
「今日も遅いんですね。」とか
「ちょっと顔色悪いようですよ。 疲れてませんか?」
と声をかけてくれる。
でも沖田さんが話しかけてくれても、私はと照れてしまってうなずく事しか出来ない。
顔がカッコいい訳ではないのだけど、笑顔がとっても可愛い。
好きとかそういうのではないと思うが、仕事で疲れた1日の最後にこの笑顔を見ると、
明日も頑張ろうって思える。
きっと私よりも年上なんだろうなーとか、どうしてコンビニでアルバイトなんてしてるんだろうとか、
つい色々と想像してしまう。
今日もレジに行くと、沖田さんは笑顔で「こんばんは」と言ってくれた。
私は照れ笑いして「こんばんは」と小さな声で言う。
お弁当を温めている間の少しの時間。
それとなく沖田さんの顔を盗み見てしまう。
優しそうな目してるなー。
髪くせっ毛だよね。
意外と肩幅広いんだな。
と色々チェックしてしまう。
ふと、私の視線に気づいたのか、私の方を見た。
私はドキッとして思わず目をそらしてしまった。
沖田さんは、「ふふっ」と笑って、私に話しかけてきた。
「この辺りに住んでるんですか?」
突然話しかけらた。
「え、は、はいっ」
「よく来てくれるから、近所に住んでるんだろうなと思ったんですけどね。
実は私、このマンションの上に住んでるんですよ。 すっごい好立地のバイトでしょ?」
私は更にびっくりして、思わず
「本当ですか? 私もなんですっ」
と言ってしまった。
沖田さんもちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔になった。
「じゃあ本当にご近所さんなんですね」
お弁当が温まって、それを受け取り私は「おやすみなさい」と言ってコンビニを出た。
同じマンションなんだ。
何階に住んでるんだろう。
何だか今日はいつも以上にドキドキした。
それからもセイはコンビニに通っているが、他愛もない会話だけして帰っていた。
最近は、仕事中もなぜか沖田の事ばかり考えている。
その日もセイは仕事帰りにコンビニへ行った。
しかし、そこには沖田は居なかった。
『なーんだ。 休みかな。』
すごくがっかりして、また明日来ようと思った。
それから3日間沖田とは会えなかった。
『どうしたんだろう? もしかして辞めちゃったのかな。』
会えないと思うと、無償に会いたくなった。
同じマンションと言っていたけど、部屋はたくさんあるし、彼女でもないセイがわざわざ部屋を探して
訪ねる事は出来ない。
それに、沖田の事は何も知らない。
下の名前も年も何も知らないのだ。
気にはなっても、セイにはどうする事も出来なかった。
「富永さん、昨夜入院した203の患者さん担当してくれる?」
朝の申し送りで、主任から申し送りを受ける。
「はい、分かりました。」
患者さんのデータを受け取り、挨拶をしに203の病室へ向かった。
データを開いて中を見ると、名前が【沖田 総司】とある。
『まさかね。。。 沖田なんて苗字はきっとたくさんいるだろうし。』
沖田という苗字に敏感になっているらしい。
『えぇーっと。 昨日の夜肺炎で運ばれたんだ。』
患者さんに会う前に、どんな症状なのか確認しておく。
203へ到着し、カーテンを開けながら患者に挨拶する。
「沖田さん、おはようございまーーーー・・・」
そこには、コンビニの店員さんが居た。
「あ」
「えっ」
「沖田さんだったんですか!?」
そこには、本当にコンビニの沖田さんがいた。
しかも、かなりやつれていた。
「あなた、看護婦さんだったんですか。 だから毎日夜遅かったんですね。」
と、力なく微笑だんだ。
「肺炎て、大丈夫ですか?? どうしたんですか?」
と、動揺して看護婦らしからぬ質問をしてしまった。
「風こじらしちゃって・・・ 1人暮らしだし、こっちに知り合いあんまりいないから誰にも助け求められなくて・・・
死んじゃうかと思いましたよー。 ・・・って、えっ!?どうしたんですか??」
セイは、会えた嬉しさと心配とが重なって、思わず泣いてしまった。
「えっ えっ?? 何で泣いてるんですかっ」
沖田が焦ったようにあたふたしている。
「いいえ! 何でもないんです。 すみません!」
セイは急いで涙を拭き、沖田の体温を測ろうとした。
「あなたのお名前、富永さんていうんですね。 初めて知りました。」
「えっ 何で・・・ って、そっか、名札・・」
今度は、沖田の方がセイの名札を確認したのだ。
「ずっと名前をお聞きしようと思ってたんですけど、聞けなくて」
「・・・どうしてですか?」
「ふふふっ 内緒です。 退院して元気になったら教えてあげます」
「??」
それから、1週間ほどで沖田は元気になり退院する事になった。
入院している間、セイは沖田と色んな話をして色々沖田の事を知った。
セイより5歳年上の24歳で、大学院を卒業して司法浪人をしているという。
かなり有名な大学を出ていると知って、意外に思った。(失礼・・)
実家は都内だそうだが、浪人の身なので親の脛はかじりたくないとコンビニのバイトで頑張っているらしい。
「退院おめでとうございます、沖田さん」
「ありがとうございます」
セイは、病院の出口に沖田を見送りに来ていた。
沖田が退院してしまうのが、ちょっと淋しいと思ったが、またコンビニに行けば会えるんだと思うと
嬉しくなる。
「コンビニにまたお買い物に行きますから」
「楽しみに待ってますよ! あ、そうだこれ・・」
と言って、沖田はポッケからメモ帳を出してきた。
「これ、私の電話番号とメルアドなんですけど、もし良かったら貰ってもらえませんか?」
セイは真っ赤になりながら、それを受け取った。
特別な意味はないと思っていても、そういう事をされたのはあまり経験がない為、照れてしまう。
「はい、喜んで。 私の連絡先は・・」
「あ、じゃあ気が向いたら連絡ください。 その時登録しますから」
「分かりました。 すぐご連絡させて頂きますね。」
セイがにっこり微笑みながら沖田に答える。
沖田は、ちょっと考えたそぶりをして、「こほん」と咳払いをした。
「あのー、えぇっと。」
「?」
セイは不思議そうに首をかしげて沖田を見上げる。
「も、もし嫌じゃなければ、今度お茶でもしませんか?」
セイの顔がぼっと赤くなる。
これはデートの誘いなんだろうか?
「嫌じゃないです。 もちろんご一緒させて頂きます。」
沖田はほっとした顔をして、
「良かった。 断られたらどうしようかと思った。 じゃあ連絡待ってますね。
今日は両親が様子を見に来るのでもう行きます。 お世話になりました。」
と言って、セイに手を振って帰っていった。
セイは、沖田の後姿を見送った。
そして、もらったメモ帳を広げた。
『富永さんへ
あなたの事が前から気になってました。
色々と話をしているうちに、もっとあなたの事を知りたいとおもいました。
良ければ、連絡ください。
090-XXXX-XXXX
沖田』
セイは、そのメモ帳を大事そうに胸に当てて、とても嬉しそうに微笑んだ。
『私もです』