眷恋 三
部屋を開けた瞬間、総司の顔が目に入り、セイは思わず顔を顰めた。
「も、もうここには来ないで下さいと言ったはずですが」
「すみません、どうしてもあなたに話したいことがあって・・・」
「・・・・・」
総司の言葉が聞こえないかのように、徐にセイは着物の帯をほどき始めた。
しゅるしゅるという音を聞き、顔を上げた総司は、ぎょっとした。
「な、何をしているのですかっ!」
慌てて着物を脱ごうをしているセイの手を掴んだ。
セイは、総司の目を見ないまま呟いた。
「何って・・ お花代頂いてますから」
どこか辛そうにそう言うセイに、総司は唇を噛みしめた。
「私はそんな事をしにここへ来たのではありません。 だから、どうかそのままでお願いします」
「・・・・」
セイは小さく息を吐くと、もう1度帯を締め直した。
それを見た総司は、ホッとしてセイと共にその場に座った。
「話ってなんでしょう」
総司の顔を見ようともしないまま、セイが淡々と訊ねる。
総司は、その場に手をついてセイの顔を見つめた。
そんな総司の行動を、セイは怪訝な表情でちらっと見る。
しばらく逡巡した後、総司は意を決したように口を開いた。
「あなたを、身請けしたいと思います」
「・・!」
突然の総司の言葉に、思わずセイは目を見開いた。
「あなたに他に好いている人がいるなら、ここを出た後その人の所へ行けるよう取り計らいます。 お里さんや正坊の事は、私が責任を持って面倒をみます。 だから、お願いします。 ここを出てもらえませんか」
賢明に言葉を選びながら、総司はセイに話した。
「い、一体何をおっしゃっているのですか」
セイは信じられないと言った顔で、総司を見ている。
「先日も言いましたが、私はあなたに幸せになって欲しいと思っていました。 でもそれはきれい事でしかなかった。 あなたを隊から出した本当の理由は他にあるんです」
「他の・・・理由?」
「私のただの我儘なのです。 あなたを隊に置いていたのも、追い出したのも、全て私の我儘なのです」
「・・・え?」
総司の言っている事の意味が分からず、セイは首をかしげた。
「何を言っても言い訳にしかならない。 きっとあなたは私の事を恨んでいるのでしょう。 恨まれても仕方のないことをしてしまったのだから。 だから、私はあなたの望む事をしたいのです」
「・・・・私の、望むこと・・?」
「はい。 あなたには幸せになって欲しい。 このような仕事を否定する気持ちは一切ありませんが、あなたがここで幸せに暮らしているとは思えません。 だから、一刻も早くここを出て下さい。 そして、あなたの本当に望む形で幸せになって欲しい」
縋るようにそう言う総司に、セイの瞳が揺れた。
「なぜ・・」
「え?」
「なぜ先生が私の為にそんな事をするのですか? 私の事が面倒になったから隊を出したのではないのですか」
「ち、違いますっ!」
「では・・ なぜです」
「そ、それは・・」
「私は先生の事を恨んでいないと言うと嘘になります。 それでも、先生には心から感謝しています。 先生や皆と過ごした日は、私にとって宝物のような日々でした。 私は・・・ずっと新撰組にいたかった」
「神谷さん・・」
「悲しかった。 私がこれまで頑張って来た事が、全て無駄だったといわれているみたいで」
セイは目に涙を溜めて、総司を見た。
「所詮、女がいる世界ではないと言われているようでした」
「そういう事ではありませんっ! 私はあなたがどれ程頑張っていたのか1番近くで見ていたのです。 ・・・そう言う事では・・・ないのです」
徐々に小さくなる言葉に、セイは総司を見つめた。
「他に理由が?」
セイの問いに、総司は頬を赤らめて下を向いた。
「私が・・ あなたが近くにいる事に耐えられなかったのです」
「っ!!!」
セイは傷ついた顔をして、唇を噛みしめた。
それを見て、セイが勘違いした事に総司は慌てた。
「ち、違いますっ! そういう事ではないのです! その・・ 何て言うか・・」
「もう良いです。 それ以上何も言わないで下さい」
聞く耳を持たないといった表情で、セイはその場に立ちあがった。
「聞いて下さいっ!」
突然大声で叫んだ総司に、セイはビクッと肩を揺らした。
「私は、あなたの事を愛しく思っています。 きっと、自分で気付かなかっただけで、きっと随分前からそうだったんです」
「え・・?」
「自分の気持ちに気づいてしまってから、その気持ちを抑える事が出来なくなりました。 あなたの言動1つ1つに一喜一憂してしまう。 最後には隊務にも集中出来なくなりました」
「・・・え」
徐々に総司の言っている事を理解し始めたセイは、ほんのりと頬を赤らめた。
「あなたを隊から追い出したのは、私の弱さからくるわがままでした。 そのせいで、あなたがこのような仕事をする事になるなんて・・」
「先生・・」
総司は再度自分の前に手をついた。
「だからお願いします! 私に身請けさせて下さい。 あなたさえここを出ると言ってくれたなら、いつでもそうなるように店の人には既に話を通しています。 あなたが望む人の元で、どうか幸せになって下さい」
頭を下げた総司に、セイは近づいた。
「先生、やめて下さい。 私なんかに頭など下げないで下さい」
「あなたが了承してくれるまで、私は何度でもここに通い続けます。 それだけ私の罪は深いと思っていますから」
それを聞いたセイの瞳から、涙がこぼれた。
「先生・・ 先生には何の罪もありません」
「神谷さん・・」
「だから、お願いします。 頭を上げて下さい」
「・・・」
顔を上げた総司に、セイはほほ笑んだ。
「ありがとう・・ ございます」
「えっ?」
「私を身請けして下さるのでしょう?」
セイの言葉を聞いた総司の顔が、明るくなった。
「そ、それじゃあ・・」
「でもお願いがあります」
「はい、何でも言って下さい」
ほんのり頬を赤らめると、上目づかいに総司を見た。
「他の人の元へなど言わないで下さい」
「え?」
セイの言っている意味が分からず、思わず聞き返した。
「私が望む相手は、沖田先生以外いません。 だから、私を他の人の元へなどと言わないで下さい」
「わ、私・・?」
「はい、沖田先生の事を私はずっと想っていました」
暫しの沈黙。
そして。
「きゃっ!」
突然強い力で抱きしめられたセイは、驚いて声を上げた。
「神谷さんっ!!」
「お、沖田・・先生・・?」
セイの肩に顔を埋め自分の名を呼ぶ総司に、セイは腕の中で固まった。
「改めて言います」
「はい・・」
「私の元に来てくれますか」
更に力を強めて自分を抱きしめる総司の胸に顔をうずめた。
「はい」
既に話を通していた為、すんなりとセイの身請けが決まった。
セイを連れて近藤と土方の元へ行き、全て事情を話した。
2人は、店でセイの姿を見た時から、この日が来ることが分かっていたようだった。
その後、セイを娶ると決めた総司は、幹部や里などごく一部のものだけを招いて小さな祝言を挙げた。
そこには、頬を染めて互いを思いやりを持った目で見つめ合う2人の男女が幸せそうに座っていた。
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雪月さまから頂きましたリクエスト、、
『オナゴとばれたセイちゃんが近藤先生から紹介された嫁ぎ先を断ってお里さんとまぁ坊を養う為に女郎となる。
新撰組の宴会にセイちゃん達女郎が呼ばれて総司にばれたセイちゃんが問いだたされて「好きでもない男の元に嫁いで体を開くのとお金の為に女郎になるのとどう違う・・」と冷たく言う。
悩んだ総司はセイちゃんを身請けして〜
みたいなシリアス』
を書かせて頂きました。
何だか、やっぱり書いていて分かりましたが、私にはシリアスは無理なのかも知れません・・・
途中何度挫折しそうになったことか(涙)
雪月さま、せっかくリクエストいを頂いたのに、きちんとお応えする事ができずに申し訳ありませんでした(; ;)
2009年1月24日
