昼が短く夜が長い日



「神谷さ〜ん?」
間抜けな声が屯所に響く。
「どこいっちゃったんでしょう、あの人ってば」
一番隊は午後非番だからセイと一緒に甘味処に行こうと計画していた。
もちろん総司一人で勝手に思っていただけなのでセイには伝えていなかった。
昼餉も済んでちょっと土方さんの所へちょっかいかけに行っている間に一人で出掛けてしまったらしい。
「神谷さん〜どこですか〜?」
一番隊組長の情けない声が屯所に響く。
こんな見慣れた新選組の屯所の光景に疑問を持つ者など一人もいない
。 その頃総司の探し人は壬生の八木邸へ来ていた。
ある物を以前から頼んでいたからだ。
「しかし神谷はん。いくらなんでも多過ぎひん?」
「神谷はんの体で持ってくのはしんどくない?」
八木家の子供達もセイの格好をみて呆れる。
「誰か連れてきたったらどない?」
「う〜ん、賄い方の人呼んで来ようかな。やっぱりこの量は一人じゃ無理だね」
そう言ってセイは一度屯所に戻る事にした。
「か〜み〜や〜さぁ〜〜〜ん」
あれから小半時も過ぎようというのに未だ総司は情けない声を出し続けていた。
そうなればそろそろもう一つの雷がそろそろ落ちるだろう。
隊士は皆そう思っていた矢先だった。
「うるせえぞ総司!てめえはいくつのガキだ!」
「人の名前を情けない声で呼ばないで下さい!」
瑠璃と玻璃の二つの怒声が同時に飛び交う。
「おい神谷!さっさとそいつを連れて行け!うるさくてかなわねえ」
「はぁ!?私だって用事があるんです!副長の部屋で昼寝させといて下さい!」
ぎゃんぎゃんと言い合う中、総司はポツリと呟いた。
「2人とも・・・私がお嫌いなんですね・・・」
すっかり拗ねきった声で落ち込んでいる姿で総司はしゃがみこんでいた。
「いいです・・・2人で楽しんでて下さい・・・」
地面にのの字を書きながらいじけ状態。
「誰が楽しくやるか!さっさと行け!鬱陶しいったらありゃしねえ!」
そう行って土方はその場から去っていった。
「沖田先生」 「いいんです。神谷さんも嫌なんでしょう?」
はぁ、と溜め息をついてセイも総司の目線に合わせてしゃがみこむ。
「私が先生を嫌いになるなんてありません。ただ今日はちょっと用事が・・・」
「私に話せないような用事なんですね・・・」
完全にいじけた総司の機嫌は直りそうにない。
セイは諦めて『用事』を教える事にした。
「先生、今日が何の日か知ってますか?」
「今日?えー・・・なんでしたっけ?」
「今日は冬至ですよ。だからその準備をしていたんです」
そう言ってセイは立ち上がる。 総司もつられて立ち上がる。
「本当は内緒にしとこうと思ったんですが、先生も手伝ってくれますか?」
「もちろんです」
「じゃあこれ持って下さい」
セイにカゴを手渡され受け取るとセイはすでに歩き始めていた。
総司もそれに続いた。
「あなた・・・これを一人で運ぶつもりだったんですか?」
「だから、誰かを呼んでこようと思って・・・」
「相変わらず無茶するんだから」
「いいから!もう時間が無いんです。ちゃっちゃと運んで下さい!」
目の前に大量のかぼちゃと柚子。
女子のセイが運ぶには何往復すればいいのだという量。
皆を喜ばせる為とはいえ、この子は・・・・。
それもいつもの事か、と総司は笑みを浮かべる。
「ヘラヘラしてないで行きますよ!」
「はいはい」 「はいは一回!」
「は〜い。急ぎましょうね」
かぼちゃを賄い方に渡して、風呂場へ柚子を持っていく。
沸かしたてのお風呂に柚子を浮かべる。
「いい匂いですね〜」
「先生、入られてはいかがですか?」
「いえ、先に近藤先生と土方さんを入れてあげたいです」
「そうですね。二人共お疲れのようですしね」
「じゃあ私が呼んで来ますね」
「宜しくお願いします」
「ほう!柚子風呂とは風流だな!」
「たまには気が付くじゃねえか」
柚子の匂い立ち込める風呂場に入って近藤も土方もご機嫌だった。
「ゆっくり浸かって下さいねvあ、土方さんも安心して入って下さい」
その意味を理解した土方の眉間に皺が寄るが、背に腹は代えられず 「・・・頼む」と小さく呟いた。
一人意味が分からないといった顔をしている近藤に総司がこっそり耳打ちした。
「伊東先生に見つかりたくないんですよ」
「うるせえぞ総司!ちゃんと見張ってろ!!」
くすくす笑いながら風呂場の前で総司は座り込む。
「そういえば神谷さんてば、またどこいっちゃったんでしょう?」
風呂場に戻ってきた時、すでにセイの姿は無かった。
そうは言っても今度はきっとあそこだろうと予想をつける。
世話焼きな彼女は今頃かぼちゃと格闘中だろう。
そう思うと夕餉が楽しみになってきた。 楽しみにしていた夕餉に出てきた冬至ならではの料理。
「あ〜冬って感じだな!おかわり!」
原田や他の隊士も笑顔でセイは大満足だった。
「ところで神谷さん?」
「はい」
「何故あなたの膳にだけ、小豆があるんですか?」
「・・・私、本当はかぼちゃ苦手なんです」
「あなたにも苦手な食べ物あったんですか・・・」
セイは好き嫌いなく食べるので今まで気付かなかった。
「実は・・・昔こうして母が作ってくれたんです」
―こうすれば、ほら美味しいでしょう? セイは小豆をすくってかぼちゃへかける。
懐かしい母の味を思い出すように味わうセイ。
美味しそうに食べているけど、やはりどこか寂しげで。
「私にはくれないんですか?」
「そう言うと思って、ちゃんと沖田先生の分とっておきました」
「流石神谷さん。分かってくれてて嬉しいですv」
そして総司も小豆をかぼちゃへかけて食べる。
「ん〜!美味しいですねvvv」
「いえ、まだまだです。母のはもっと美味しかった気がするんです」
総司はそれ以上言わなかった。
きっと母の味を超える事はないだろう。
思い出の味に敵うものなど無いのだから。
それでも総司にとってみれば十分美味しいと言える。
「じゃあ来年はもっと美味しいのを期待してます」
「はい!頑張ります!」
「約束ですよ?」
そういってセイの小指を絡める。
セイにとってこの約束は冬至のあれこれよりも暖まるものだと思った。
そして三番隊近辺ではどこよりも冷たい風が吹き荒れてましたとさ。