光 後編
男なんて嫌い。
信用出来る人間自体、この世にはいない。
一昨日も、中川とかいう男が付き合ってくれと言ってきた。
ちょうど、この前まで付き合っていた男が面倒で別れた所だから、付き合うことにした。
相手が誰とか別にどうでも良いし、どこで何しようが全く興味もない。
ただ、言われたから付き合うだけ。
男なんてやる事やらせとけば満足するし、何でもわがままを聞いてくれる。
「セイ〜 今日の帰り一緒に帰んない?」
中川が話しかけてきた。
「別に用事ないし良いよ。」
そう、別に用事がないから一緒に帰るだけ。
男は信用出来ない。
大ッ嫌い。
中川は、付き合い始めだというのに馴れ馴れしくセイの腰に手を回し、いちゃいちゃしながら歩いていた。
「歩きづらいから、もっと離れてくれない?」
セイは感情の篭らない声で言う。
「冷たいな〜。 良いじゃん。 付き合ってんだから。」
うざい。
こんな奴と付き合うんじゃなかった。
さっきから自分の自慢話しかしないし、頭の悪い話し方をする。
とっとと分かれて帰ろうと思ったのに、中川はそんなセイの様子に気づきもせず、ゲームセンターに行こうと無理やりセイをつれて店に入っていった。
店に入る直前、総司が目に入った。
こちらを見ていた。
セイは気づかないフリをして、そのまま中川とゲームセンターに入った。
何が嬉しいのか、中川は楽しそうにプリクラを何枚も撮っていた。
全く笑わないセイに、中川は不満そうだったが。
4枚目を撮ろうとした時、セイはいい加減にして欲しいとばかりにプリクラの機械から出ようとした。
すると、中川はセイを抱きしめ、無理やりキスをしてきた。
セイは嫌悪感を感じたが、抵抗せずされるがままになっていた。
「セイ、ホテルいかね?」
中川は耳元で囁いた。
心の底から中川が気持ち悪いと思う。
「ごめん。 今日は帰らせて。」
セイは中川の腕を振り払ってプリクラの機械から出た。
すると中川がいきなりセイの腕を強く掴んできた。
「イタッ」
「調子に乗ってんじゃねーぞ。 やらせろよ。」
中川は、セイの腕を掴んだままゲームセンターを出てホテル街へ向かおうとした。
セイはやめてと言うが、全く中川は聞く耳を持たない。
周りの人は面白がって見ているだけで、誰も助けようとしない。
セイは泣きそうになっていた。
『絶対こんな奴とやりたくない』
必死に抵抗するが、やはり相手は男だ。
腕を振りほどけないでいた。
ホテルの前まで来た時、セイの腕を掴んでいた手がふっと離れた。
何が起こったのかと思った瞬間、中川が倒れこんだ。
びっくりして振り向くと、総司がいた。
総司は、セイと中川がゲームセンターに入るのを偶然見ていた。
自分には関係ないとその場を立ち去ろうとしたのだが、昨日の事があったので、
気になって様子を見ていた。
すると、プリクラの機械から中川が無理やりセイの腕を掴んでどこかへ連れて行こうとしていた。
総司は後を着いていった。
すると、嫌がるセイを連れて、すぐ近くにあったホテルに入ろうとしていた。
それからは何も考える前に行動に出ていた。
道場へ行くために持っていた竹刀で、中川の頭を思いっきり叩いたのだ。
中川が倒れた隙に、セイの手を取りその場から走り去った。
どれほど走ったのかは分からないが、2人は公園を見つけてベンチに座り込んだ。
はぁっ はぁっ
息が苦しい。
「セイちゃん、大丈夫?」
セイは答えない。
「セイちゃん?」
セイは苦しそうに呼吸しながらも、総司に言った。
「余計な事、しなくて良いのに。」
総司はそれを聞いても何も言わなかった。
何となく、そう言われる事を予想していたからだ。
セイは、そのままその場を立ち去ろうとした。
「待ってセイちゃん!」
「・・・なに?」
総司は何を言っていいか分からなかった。
聞きたい事は山程あるのに、言葉が出なかった。
「・・・話がないなら帰るよ。」
セイは再び歩き出そうとした。
「何で僕の事避けるの? 何かした?」
セイは立ち止まり、うつむいたまま何も答えない。
総司は決心したように言う。
「僕は・・・・ 僕は昔からセイちゃんの事がずっと好きだったんだ。
セイちゃんが僕の事避けてても、やっぱりセイちゃんが好きなんだよ。」
セイはまだうつむいたままいる。
「セイちゃんが僕の事嫌いでも良いよ。 でも、何か力になれる事あったら頼って。
何かあったんでしょ?」
「・・・でしょ」
「え?」
「男なんて、どうせ裏切るでしょ!」
セイは泣いていた。
男なんて、どうせ裏切る?ーーーー
「男なんて、いくら信用したって最後には絶対裏切るのよ! 平気で傷つけるでしょ!
私は男が大っ嫌いなのよ!」
セイはその場に泣き崩れた。
「お願い、もう私に構わないで」
総司は、セイを抱きしめた。
セイはびっくりして、振り払おうとするが、総司はそれに構わず、ぎゅっと抱きしめる。
「僕は何があっても絶対にセイちゃんを裏切らない。 生まれたときから、セイちゃんの味方だから。」
セイは、抵抗をやめ総司の腕の中で泣いた。
総司はセイが泣き止むまで我慢強く待った。
腕の中のセイは、以前より痩せたようだった。
泣いているせいか、震えている。
総司は、セイの背中をゆっくりゆっくりさすって落ち着かせようとした。
「・・・総ちゃん」
久しぶりにセイに名前を呼ばれた。
総司はドキッとしたが、平静を装った。
「ん?」
「私、父親にレイプされたの。」
頭を鈍器で殴られたような感じがした。
「な・・・に・・・?」
セイの本当の父親は、セイと総司が2歳の時に亡くなったと聞いている。
その後、2人が5歳になった頃、セイの母親が再婚した。
その義父は、セイの事を自分の子供のように可愛がっていた。
その父親がセイをレイプしたというのか。
だから、セイは突然引越ししたのか。
「私、お父さんの事信頼してた。 大好きだったの。」
「・・・・うん」
総司は搾り出すように声を出した。
「お母さんが同窓会で家を空けた時、お父さんと2人きりになったの。
私はいつも通り寝ようとしたら、突然お父さんが部屋に入ってきて・・」
「もう良いよ!」
セイがびくっとする。
僕は思わず叫んでしまった。
はっとして、声を落とした。
「もう、それ以上言わなくて良いよ。 分かったから。」
そう言ってセイの頭をゆっくりと撫でた。
セイは再び泣き出した。
「私、それから人が信用できなくなった。 男が大っ嫌いになったの。」
当然だろうと総司は思った。
「総ちゃんの事避けてたのは、レイプされた私を見られたくなかったから。」
総司は黙って聞いていた。
「・・・私も総ちゃんの事が昔から大好きだったから。 だから、そんな私を見られたくなかった。」
総司は何て言って良いのか分からなかった。
セイに好きだと言われて嬉しかった。
でもセイの今の状況を考えると、喜んでいられなかった。
何とかセイの支えになりたい。
自分の事だけは信用して欲しい。
自分だけはセイの味方で居られると思っていた。
「セイちゃん・・・」
なんて言ってあげたらいいんだろう。
何も言葉が見つからない。
セイは何も言わない総司に対して、勘違いしたのだろう。
総司からそっと離れて立ち上がった。
「もう大丈夫。 私は1人で生きていけるから。 今日の事は忘れて。」
そう言って、歩き出そうとした。
総司はセイの手を掴み、自分に引き寄せた。
そして、セイに優しくキスをした。
セイはびっくりして総司を見上げている。
「僕はセイちゃんが大好きなんだ。 どんな事があっても、セイちゃんを守るって約束する。
信用出来ないかな?」
そしてセイを力いっぱい抱きしめた。
セイは、総司の腕の中で泣きながら「ありがとう」と言った。
ゆっくりだけど、一緒にセイの傷を癒していこうと総司は思った。
それから総司とセイは、また以前のようにいつも一緒にいるようになった。
まだセイは他の人とは距離を置いているようだが、徐々に昔に戻りつつある。
総司がいつも近くにいるせいか、セイに言い寄ってくる男もいなくなった。
今日も2人は手をつないで仲良く歩いている。
「総ちゃん」
「ん? なに?」
総司は優しい目でセイを見る
。
セイは少し頬を赤らめて総司を見上げた。
そして総司の頬にちゅっとキスをした。
「大好き」