光  前編




「B組の中川、今度はA組の富永と付き合い始めたらしいぜ」
「マジかよ? 何であんな可愛い子がやったらすぐポイ捨てするような中川なんかと付き合うんだよ。」
「て言うか、富永もつい最近まで別の奴と付き合ってなかったか?」
「富永マジ可愛いからな〜。 俺も一回でいいからデートしてみたいよなー」

クラスの男子が話しているのをこれ以上聞いていたくなくて、総司は教室の外に出ようと席を立った。

「お! 総司! 総司って富永と幼馴染だろ? 富永って前の男と別れたの?」
突然クラスメイトが総司に話しかけてきた。
総司は顔色ひとつ変えないで答えた。
「さぁ? 幼馴染っていってももう家も離れてるし、今はほとんど会話もしてないから、彼女が
どこで何してるかなんて何も知らないな」

なーんだ と言って、男子たちはまた噂話を始めた。・

総司は1人になりたくて、屋上へと上った。
手すりにもたれて空を眺め、「はぁ」とため息をついた。

僕とセイちゃんは、同じ誕生日で隣同士だった。
小さいころからいつも一緒で、仲も良くてどこに行くにも一緒だった。
僕は、可愛くて素直で優しいセイちゃんが大好きだった。
高校も同じ学校へ進んだ。
これからも、ずっとセイちゃんと一緒にいたいと思っていた。
それなのに、ある日を境にセイちゃんは変わってしまった。


1年ほど前、突然セイちゃんが隣町に引越ししてしまった。
それも、僕には何も言わずに。
セイちゃんは1ヶ月程学校を休んでいた。
心配した僕は、何度もメールをしたし電話もした。
しかし全く電話はつながらなかった。

ようやくセイちゃんが学校に来たと知り、すぐにセイちゃんのクラスに会いに行った。
しかしそこにいたのは、今までのセイちゃんとは違う目をした彼女だった。

「セイちゃん! 心配したんだよ! どうしたの? 体壊しちゃった?」
総司はセイに話しかけた。
しかしセイは全く総司を見ることなく、「別に」と言って去っていった。
その反応に総司はかなりショックを受けた。
今までセイにそんな態度を取られたことがないからだ。
何があったのかどうしても知りたくて、何度も彼女に話しかけた。
セイは全く総司と目を合わせようとしなかった。
最後には、「しつこいんですけど。 もう私に話しかけないでもらえます?」
と言った。

セイは以前に比べ、口数が減ったようだった。
前はクラスでも男女問わず人気者で、いつも彼女の周りには人が居た。
しかし今はセイ自身が人を寄せ付けないようにしているようだ。
その癖、近寄ってくる男の事は拒まないといううわさを聞いた。
前からセイはかなりモテていた。
しかし、総司という幼馴染のような彼氏のような存在がいた為か、実際にセイに告白してくる男は
いなかった。
今は総司が近くにいなくなったのをいい事に、セイを気に入っていた男は遠慮なく彼女に近づく。
それをセイは受け入れていると言うのだ。
自分の事は頑なに拒む彼女が、他の男なら簡単に受け入れるという事を最初はとても悲しく思っていたが、次第に憎らしく思うようになってきた。
そして、もう今のセイは以前のセイとは違うのだと自分に言い聞かせて、彼女に会いに行くことも話しかける事もしなくなった。

なのに、やっぱり今日みたいな噂話を聞くといい気はしない。
自分でも女々しい男だと思うが、生まれたときから一緒にいたのでなかなか割り切ることが出来ない。

「セイちゃん・・・」
思わず総司は空を見上げながらセイの名前を呼んでしまった。
恥ずかしくなり、周りを見渡すが、幸いにも誰もいなかった。
ホッとして教室に戻ろうと屋上を出た。



授業が終わり、クラスメイト達は部活へ行くもの帰る者と、皆散り散りになっていく。
総司は、以前まで剣道部に所属していたが、あまりの弱小ぶりに止めてしまい、知り合いの道場の子供たちに週に2日教えに行くだけになった。
なので、道場がない日は授業が終わるとブラブラして家に帰る。

「総司〜」
帰ろうとした総司を、クラスメイトの藤堂平助が呼び止めた。
「何?」
総司は面倒くさそうに答える。
「今日さ、A女子高と合コンやるんだけど、1人面子足りないんだ。 参加してくれない?」
平助は、とても期待した目で総司に話しかけた。
総司は全く乗り気じゃなかったが、どうせ帰っても暇なので参加することにした。

「・・・いいよ。」
「やった! じゃあ行くよ! 駅前のカラオケ屋だからさっ」
と、平助は嬉しそうに言うと、総司の腕を掴んで教室を出た。

メンバーは、女好きで有名な隣のクラスの原田くんと永倉くん、平助そして総司の人だった。
行ったはいいが、全く気が乗らず、アイスコーヒーを飲んでどうにか時間を潰そうとしていた。

「総司さぁ、そんなつまんなそうな顔したら女の子達に失礼じゃん」
原田が総司の肩に腕を回しながら話しかけてきた。

「そんな事ないよ。 ただ、あんまりこういうの慣れてないから。」
原田はにっと笑った。
「で、どの子が好みなんだよ?」
「どの子も可愛いと思うけど、僕は今日そういうつもりで来てないから。」
総司はアイスコーヒーを飲みながら答える。

「ほら、あの子。 美香ちゃん。 さっきからずっと総司の見てんだよ。 相手してやれよ」
総司は原田の指差すほうを見た。
ショートカットの可愛らしい女の子が総司の事を見ている。
しかし総司は全く興味が湧かなかった。

「ちょっとトイレ」
そう言って総司は部屋を出た。
やっぱりこういう場を自分は好まないと思った。
このまま帰ろうかと思っていると、ふとある部屋が目に入った。
そこには今日セイと噂になっていた中川が、知らない女の子と一緒にいた。

女の子の腰に手を回し、耳元で何か話している。
女の子も、嬉しそうに中川に寄りかかっている。

総司はカッとなった。
中川はセイと付き合っていたのではないのか?
セイとは遊びなのか。 それとも二股か。
部屋に怒鳴り込もうとしたのを、総司は理性で抑えた。
今の自分はセイとは何の関係もない。
別に彼女がどうなろうと、自分には関係ないのだ。

やはりこれ以上ここにいる気になれず、総司はカバンを取りに部屋に戻るとそのまま止める周囲の声を無視して帰った。