春なのに
3月。
もう少しで、大好きなあの人はこの学校から居なくなってしまう。
「かーみやさん♪ 今日の帰り暇ですか?」
今日は3年生は久々の登校日。
もうすぐ卒業してしまう、この私の愛しい先輩はいつものように私を誘ってきた。
「すみません、今日は用事があるのでちょっと・・・」
目も合わさずに、その場を去ろうとする私を、先輩は引きとめた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぅ! そう言ってこの前もその前の前も断ったじゃないですかっ!
今日こそは付き合ってくださいよぅ!!」
今までこの先輩の誘いを断った事なんて1度だってなかった。
しかし、ここ数回続けて断っている。
「受験も終わって授業もない先輩とは違って、私は忙しいんですっ!」
そういうと、先輩はぷうっとほっぺを膨らませた。
「神谷さん酷い! あなたが一緒に行ってくれないから、この私がもう1ヶ月以上も甘いもの我慢させられてるの知ってますか!?」
そう、私なんて先輩にとってはただのケーキ仲間に過ぎないのだ。
「そんなの知りませんよ。 そんなに食べたいなら、私じゃなくて彼女誘えば良いじゃないですかっ!」
「えっ!?」
「じゃ、私はまだ授業が残ってますので」
そういうと、私は先輩の前から足早に去ろうとした。
後ろから「待って! 神谷さん!」と声がするが、私は振り向かない。
今にも涙が零れ落ちそうになる。
私は見てしまった。
1ヶ月程前、先輩が知らない女の子に告白されているのを。
そして、その後手をつないで歩いているのを。
この学校に入学してから、ずっとずっと先輩が好きだった。
いつも何する時でも一緒で、周りからも仲が良いねといわれて。
もしかしたら、先輩も私のこと好きでいてくれてるのかも知れないと思っていた。
バカな私。
それから私は先輩を避けるようになった。
先輩の口から彼女ののろけ話なんて聞かされたら生きていけない。
それなのに、あの人は毎回毎回会うたびに私を誘ってくる。
彼女がいるのなら、私の事はほっといて欲しい。
唇をかみ締めて涙をこらえた。
卒業式当日。
とうとうこの日が来てしまった。
あれから何度か先輩からメールや電話があったが、全て無視した。
きっと先輩は私の事はただの後輩としか思っていないから、突然私の態度が変わった事を不思議に思っているだろう。
彼女が出来た事が原因だなんて微塵も気づいていないはずだ。
でも本当に今日でお別れだと思うと、悲しくて悲しくて堪らない。
彼女のいる先輩に告白する気なんてさらさらないし、笑って送り出す勇気もない。
在校生も卒業式に参加する。
卒業証書授与式で先輩の名前が呼ばれた。
それだけで私の心はズキズキと痛んだ。
卒業式も架橋に入った。
卒業生たちがヴィヴァルディの春が流れている中、退場していく。
思わず先輩の姿を探してしまう。
(いた・・)
何故か先輩も私の事を見ていた。
目が合った瞬間、先輩は私を見てにっこりと微笑んだ。
なのに私は目を背けてしまった。
こんなに心の狭い自分が嫌だ。
大好きな人の幸せも願えない自分が本当に嫌だ。
ポロポロと涙がこぼれた。
今までずっと我慢していたのにk、1度あふれ出した涙はとめどなく溢れてきた。
校庭では卒業生達が記念撮影したり、別れを惜しんだりしている。
私はその様子を1人教室のベランダから見下ろしていた。
最後まで先輩には会うつもりはなかった。
きっとこの中にいるんだろうな・・
そう思うが、彼女と一緒に居るところを見てしまったら、本当に立ち直れない。
私は両腕をベランダに乗せ、その上に顔をうずめた。
「神谷さん、こんなところに居たんですか! 探しちゃいましたよぅ」
突然後ろから聞こえた声にびっくりした。
しかし声の主が誰かなんてすぐに分かる。
会いたくないのに会いたかった人。
どんな顔して会えば良いのか良く分からなくて、私は顔をあげずにいた。
「何ですか? 下で皆と写真撮って来た方が良いんじゃないですか?」
わざわざ会いに来てくれたことが嬉しくて仕方ないのに、素直になれない私はわざとそんな言い方をしてしまう。
「最後くらい神谷さんと話がしたかったんです。 だってずっと私のメールも電話も無視するんですもん」
悲しそうな声が聞こえた。
「・・・彼女」
「え?」
「待ってるんじゃないんですか? 早く行ってあげたらどうですか?」
「前から聞きたかったんですが、彼女って何の事ですか?」
「えっ!?」
私は思わず顔を上げて先輩を見た。
「だって先輩女の人と手つないで歩いて・・」
納得したような顔をした先輩は、「あぁ、その事ですか」と言った。
「あれは告白されたけどお断りしたんですよ。 でも高校生最後の思い出に1日だけ付き合って欲しいと言われて、それで行っただけです。 あれからは全然会ってませんよ。」
その言葉に拍子抜けした。
「そう・・なんですか。」
「あれ? もしかしてヤキモチ焼いてくれてました?」
先輩はニヤっと笑って私の顔を覗き込んだ。
「はっ!? ヤキモチなんて焼いてません!」
私は慌てて後ろを向いた。
きっと今の私は真っ赤な顔をしているんだろうな。
「神谷さん、どうしても神谷さんに伝えたい事があるんですけど・・・」
突然真剣な声になった先輩に、私はドキドキして動けなくなった。
「な、なんですか」
「こっち向いてくださいよ」
と言って、先輩は私の両肩に手を乗せて向きを変えさせた。
私はドキドキして先輩の顔を見れないでいる。
「神谷さん、ずっとあなたの事が好きだったんです。 卒業しても、ずっとあなたといたいんですけど・・・
ダメですか?」
私は心臓が飛び出るんじゃないかというくらいびっくりした。
「え・・」
「ダメ・・ですか?」
先輩の悲しそうな声に、私は思わず顔を上げて先輩を見た。
「何度誘っても振られるし、メールしても電話しても無視されるし。 本当は言うの悩んだんですけど・・」
「ごめんなさいっ!」
私は思わず叫んでいた。
「だって・・ 彼女いるなら諦めなきゃって。 そう思って私・・」
そこまで言うと、また涙が溢れてきた。
「もう、やっぱりあなたは泣き虫ですねぇ。」
先輩は、私の涙をそっと指で拭ってくれた。
「これからもずっと一緒にいてくれますか?」
「はい・・」
その後、先輩は嬉しそうに微笑んで、私を抱きしめた。
私は嬉しくて恥ずかしくて動けなくなった。
「大好きですよ、神谷さん」