華の香
「とりゃーっ!」
「まだまだー!!」
カーン!!
大きな音を立てて、竹刀が飛んだ。
「あちゃー。 やっぱり神谷はんは強いなぁ」
「さっきから一本どころか、かすりもせんわ」
為坊と勇坊は笑いながら竹刀を拾った。
「あははっ 子供に負けるようじゃ新撰組の名が泣くよ」
セイは勝ち誇った顔で竹刀を方に担ぎ笑った。
「どうする? もう1本やる?」
セイは挑戦的に2人に言った。
「当然や!」
「次こそ負かせたんで!」
そう言いながら、為坊がセイに向かって竹刀を構えた。
と、その時。
「何をやっているんですか! あなた達は!!」
血相を変えて、沖田総司が走ってきた。
「うわっ 沖田先生」
「やばー 見つかってもうたわ」
3人は逃げ腰になる。
セイの元に来た総司は、セイから竹刀を取り上げた。
「家にいないと思ったらこんなところで! しかも何をしているんですか! 自分が今どういう状況なのか分かってるんですか!?」
「・・・はい。 すみません。 つい・・」
セイはしゅんとして下を向いた。
「沖田はん、そないに怒らんといてや。 うちらが無理やり誘ったんやって」
「そうやそうや。 神谷はん毎日家ん中でじっとしてて暇そうやったから、ちょっと相手してもらったんや。」
すると総司は、今度は為坊と勇坊をきっと睨んだ。
「あなた達も何をしてるんですかっ! もうしばらくはこの人を誘わないで下さいよ!」
怒鳴る総司を2人は面白そうに見ている。
「ほんま沖田はんは過保護やなぁ」
「そうやそうや。 神谷はんがあかんのやったら沖田はんが相手してーや」
「今度遊んであげます。 今日は用事がありますから」
そう言って、セイを促して帰ろうとした。
「為坊、勇坊ごめんね。 またね」
手を引かれながら、2人を振り返り、セイは苦笑いしながら帰って言った。
「ほんま、神谷はんは苦労するなぁ」
「沖田はん心配性やからなぁ」
為坊と勇坊は、2人が去っていった後姿を見ながらため息をついた。
「全く! あなたという人は! 竹刀なんて持って万が一の事でもあったらどうするんですかっ!」
セイの手を引きながら、まだ総司はぐちぐちとセイに説教をしている。
「だって、沖田先生。 毎日毎日家の中にいたら体なまっちゃいますよ。」
「だからってっ!」
と、また怒鳴ろうとした総司に、セイはしぃーと人差し指を口の前に立てた。
「あんまり大きな声出すと、びっくりしちゃいますよ。」
そういわれ、総司はぐっと言葉を止めた。
「父上は口うるさいですねぇ。」
セイが自分のお腹をさすった。
そう、セイのお腹の中には総司の子供がいる。
あと数週間で生まれるであろうお腹はパンパンに膨れている。
「あなたは一体いつになったら淑やかになってくれるのですか。 もう母親になろうという人が竹刀なんて
振り回すものではありません」
総司は一応お腹の子に気を使って小さな声で言った。
「沖田先生、私何度も言いましたけど」
「ダメですっ!」
セイが言い終わらないうちに総司が反論した。
「まだ何も言ってませんけど・・」
「あなたの言いたいことくらい分かります。 新撰組に戻る事は絶対に許しません!」
総司にそういわれ、セイはぷーと頬を膨らませて拗ねた。
「良いですか、セイ。 あなたは私の奥さんになったんですよ。 それにややが出来たら母親になります。 万が一あなたに何かあったら子供はどうするのです? 母親のいない子にしたいのですか?」
「それじゃあ、沖田先生に何かあった時はどうするのですか!? 私は先生を守りたくて・・・」
総司は優しくセイに微笑みかける。
「私は絶対に死んだりしません。 だから安心してください。」
そう言われて、セイは何も言えなくなった。
「もう新撰組に戻りたいなんていわないで下さいね。 それと、もういつ生まれてもおかしくない状態なんですから、家で安静にしていなさい。 約束ですよ。」
とセイの頭に手を乗せ、ぽんぽんと軽く叩いた。
「・・・・はい」
納得のいかない表情をしながらも、セイは返事をするしかなかった。
「では、行って来ますね」
そう言うと、総司は屯所へ行くため家を出て行った。
総司の姿が見えなくなってから家に入ろうとしたセイは、何か違和感を感じた。
(誰かに見られている)
背後から殺気を感じた。
セイは気づかないフリをして、家の中に入り急いで大刀を手に取った。
そして玄関をじっと見た。
カタッ
静かな音を立てて戸が開く。
セイは奥の部屋へ移動し、じっと息を殺した。
音を立てず気配だけがこちらへ近づいてくる。
セイは息を呑んで大刀を鞘から抜いた。
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土方の使いから屯所へ戻った総司は、自分に駆け寄ってくる隊士に信じられない話を伝えられた。
「神谷が襲われました!」
今すぐにでも家に帰ろうとした総司に、隊士は今すぐ副長室へ行けと言う。
逸る気持ちを抑え、急いで土方の部屋へ行った。
名乗る事も忘れ、部屋の戸を勢い良く開ける。
「土方さん! セイは無事なのですか!!」
血相を変えて土方の部屋へ入った総司の目に、信じられないものが飛び込んできた。
何と、そこには襲われたはずのセイが、土方の肩を揉んでいる。
「セイ!?」
「沖田先生、お帰りなさい」
セイは、土方の肩を揉みながら笑顔で総司を迎えた。
「あなた・・・ 襲われたはずじゃ・・・」
セイが無事なのを確認した瞬間、総司は気が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「はい♪ やっつけてしまいました」
何事もなかったかのように言いながら、土方の肩を肘で思いっきり揉み解し始めた。
「いってぇ〜っ! てめぇ 何しやがるっ!」
それまで気持ち良さそうにもまれていた土方は、突然の激痛に飛び上がった。
「だって副長、ここの所すっごい凝ってますよ? とてもじゃないですが、指では揉み解せません。」
「だからってなぁ! ちったぁ手加減てものを知らねぇのか!」
「そんな事言うなら他の人に揉んでもらえば良いじゃないですかぁ」
「お、おい 途中で止めるなよ」
「ちょっと待ったぁ!」
いきなり叫んだ総司に、2人は何事だと振り向く。
「どうしたんですか? 沖田先生」
「何だいきなり大声だして」
涙目になって2人を睨んでいる総司を不思議そうに見る。
「私がどれほど心配したと思ってるんですか! それを何事もなかったかのようにっ しかもセイ! 土方さんから離れなさい!」
と、セイを土方から引っぺがした。
「何なんですか、沖田先生??」
訳が分からずセイが抗議する。
「あなたは私の妻なんですから、私以外の人の肩なんて揉んじゃだめなんですっ!」
セイを抱きしめたまま大声で叫んだ。
それを聞いて、土方もセイもあきれ返った。
「どうでも良いけどよぉ、総司。 そのじゃじゃ馬当分屯所で預かる事にした。」
「はぁぁぁぁっ!?」
「今回襲ってきた輩は、お前に恨みを持った奴だった。 幸いこいつの方が腕が立ったせいで何事もなく終わったが、このままあそこに1人で置いといたらまた襲われかねんからな。」
土方の言葉に、総司はショックを受けた。
出来れば、こんな男所帯にセイを置きたくはない。
しかし総司に恨みをもった輩は少なくない。
今回たまたま助かったが、今後今の状態では思うように刀も振れないだろうし逃げ遅れる可能性もある。
「セイ・・・ 本当は屯所になんていて欲しくはありませんが、今回のような事がまたあれば困りますからね。
ややが生まれるまでの間ここにいなさい。」
その言葉を聞いて、心なしかセイの顔が緩んだ。
しかしそれは一瞬の間の事で、すぐ真剣な顔になり、「承知しました」と元気良く答えた。
元々可愛がられていたセイは、女子姿で屯所にいる為余計隊士達の気を引く存在となった。
ちょっとでも総司が目を離すと、セイは屯所を歩き回り隊士の話し相手になったり洗濯物を引き受けたり
賄い方の手伝いをしたりとじっとはしていなかった。
総司は、屯所に置くんじゃなかったと心底後悔したが、かといって1人にして危険に晒す訳にもいかずもんもんとした日々を過ごした。
「せんせぇ、兄上とお買い物に出ても良いですか?」
「ダメです!!」
総司の気も知らないで、セイは遁所に戻ったことを良いことに屯所での生活を伸び伸びと過ごしている。
(ホントにこの子は自分の置かれている状況を理解してるんだろうか?)
そろそろ総司の堪忍袋の緒が切れるのではないかという頃、セイは無事男の子を出産し屯所を後にすることとなった。
セイもこれでおとなしくなるだろうと安心した総司だったが、今度は自分よりも我が子ばかりを可愛がるセイにヤキモチを焼くようになったとか。
「セイぃぃぃぃぃっ 私の事も相手してくださいよぅ」
「あ、先生。 ご飯なら出来てますので、ご自由にお食べくださいね♪」