旧友




「おばあさん、お昼ご飯はまだですか?」
おじいさんとおばあさんは、いつものように午後のひとときを縁側で日向ぼっこをしながら
のんびりと過ごしていました。

「あら嫌だ、おじいさんたら。 先ほどお魚の煮物とお漬物をおかずに、あんなに召し上がって
らしたじゃありませんか」
おばあさんは笑いながらおじいさんを見た。
「おや、そうでしたか? 最近物忘れがひどくていけませんね」
おじいさんはニコニコとおばあさんに笑い返しました。


「では、午後のおやつに昨日買ったお団子を食べますか?」
おじいさんは嬉しそうにおばあさんに問いかけました。
「今日はこれから斉・・藤田先生と奥様が遊びにいらっしゃるのをお忘れですか? 
皆で食べましょうと言って買ったんじゃありませんか。」
おばあさんにそういわれ、おじいさんはあっという顔をした。
「そうでしたそうでした! 藤田さん達が来るんでしたね。 随分ご無沙汰ですからね。 楽しみですよね」
「はい」
そう言って2人は微笑みあった。

「では、2人が来るまでこうしてゆっくりしていましょうか」
おじいさんはおばあさんの手を取り、庭に目をやった。
おばあさんは少し頬を赤らめながら、同じよう庭を見る。
「そうですね」





「ごめんください」
しばらくして、訪ねる声がした。
少しうとうとしかけていたおばあさんは、その音にはっとなり急いで玄関へ向かった。
玄関を開けると、そこには懐かしい顔があった。

「まぁ藤田先生! それに時尾様も! ようこそいおいでくださいました。」

「おセイさん、久しぶりだな。 元気にしていたか?」
「ご無沙汰しております、セイ様。」

おばあさんは、まんべんの笑顔で2人を迎え入れる。
「狭い家ですが、どうぞお入りください。」


2人を居間へ案内すると、縁側のおじいさんに声をかける。
「おじいさん、藤田先生たちがいらっしゃいましたよ」

「・・・・・」
おじいさんは反応しない。

客人たちは出された座布団に座った。
「沖田さんは人を呼んでおいて昼寝か」
藤田は呆れながら縁側を見やる。

「すみません、さっきまで2人で日向ぼっこをしていたもので。 すぐに起こしますので」
といって、おばあさんはおじいさんを優しくゆらしながら呼びかける。
しかし、おじいさんは寝息を立てて熟睡してしまっており、全く起きる気配がない。

「しょうがないですねぇ。」
と言って、おばあさんは大きく息を吸う。


「沖田先生! 巡察の時間ですよ!」
おばあさんがおじいさんの耳元で叫ぶ。
その瞬間、おじいさんは飛び起きたかと思うと、キリっとした目でおばあさんを見る。
「はい、神谷さん。 行きますよ」
力のこもった目でおばあさんを見ていたおじいさんは、様子がおかしい事にしばらくして気づく。

「あ・・・    おばあさん、また私を騙しましたね?」
「おじいさんが、何度呼んでも起きないからですよ? ほら、藤田先生と時尾様がいらしてくださってます。」
そう言って2人のほうを向く。
おじいさんも、目線を2人に向けた。
「あ、藤田さんと時尾さん! どうもお久しぶりです!!」
おじいさんはこれ以上ないくらいの笑顔で2人の元へ行った。

「あんたはこの年になってもおセイさんがいないとどうしようもないのだな」
藤田が呆れたように言った。
時尾もそれを聞いてふふふと笑っている。

「はははっ 私はこの人がいてくれるから、これまでやってこれたのですよ」
笑いながら、藤田の前に座る。

そこへ急須と人数分の茶碗を盆を乗せたおばあさんがやってきた。
「いいえ、おじいさんがいないとダメなのは私のほうですから」
おばあさんはおじいさんの隣に座り、お茶を入れる。

「ここに来てまであんた達の惚気を聞く事になるとは思わなかった。」
藤田はそう言って渋い顔をした。

おじいさんとおばあさんは顔を見合わせて照れたように顔を赤くした。
「すみません・・」

4人はそのまま夜まで昔話に花を咲かせた。

「今日はお2人はこのまま泊まって行かれますよね?」
お酒も入り、調子づいたおじいさんは藤田達に尋ねた。
「特に宿も取っていないので、そうさせてもらえるとありがたいが」
結構な量の酒が入っているにもかかわらず、一向に顔色が変わらない藤田が無表情で答える。
「一緒に寝るなんて、何年ぶりでしょうね?」
嬉しそうにおばあさんが話に入る。

「あなたはダメです! 私と2人で寝るんですよ! 藤田さんと時尾さんは客室に寝て頂くのです!」
おじいさんはぶぅと膨れながらおばあさんを見やった。

「あんたは未だに悋気しているのか。 おセイさんも大変だな」
「私は人生かけてこの人一筋でしたからね! これからもセイだけです」
おじいさんは微笑みながらおばあさんを見る。
おばあさんもそう言われ、嬉しそうにおじいさんを見ている。

(全く、やってられんな、こいつらは。 40年前と何も変わっていない)
藤田は内心呆れながらため息をついた。
しかし、この2人のやり取りを見て、とても嬉しい気持ちになったのも事実。
昔の仲間は今はもうほとんどいない。
やはり今日来て良かったなと思った藤田だった。

「そう言えば永倉さんはどうされてますか?」
「確か、家督を継いで今は杉村と名乗っているそうだ。 今は北海道の小樽という所に住んでいると
聞いたが、連絡を取っている訳ではないからな」
「そうですか。 死ぬまでには1度会いたいですね。」
そういって、おじいさんは遠い目をした。

「おい沖田さん。 あんたの奥方はもう寝かせてやったほうが良いのではないか?」
藤田に言われ、ふとおばあさんを見るとこっくりこっくりと舟をこいでいた。
「おや、寝てしまったのですか。 藤田さん達が今日来ると言ってとても楽しみにしていたのですが、
少し気を張りすぎたのでしょうね」
そう言っておばあさんをひょいと持ち上げた。
「すみません、この人を布団に寝かせてきます。 すぐお2人のお部屋も用意しますので」
おじいさんは部屋を出て行った。

「五郎様。 沖田様とセイ様は本当に素敵なご夫婦ですね」
「・・・そうだな。 あの人達は昔から変わらん。」
時尾はふふと笑った。
「あの方たちと一緒にいる五郎様を見ていると、本当に心を許してらっしゃるのだと思いました。」
藤田は時尾を見た。
「俺が斉藤一と名乗っていた頃からの唯一の友人と呼べる人達だからな。」
「五郎様のお友達とこうして私も仲良くさせて頂ける事は何よりも私の幸せでございます。」
2人は顔を合わせて笑った。

「それにしても、沖田さんは遅いな。 ちょっと見てくるか」
藤田はおじいさんが入っていった部屋をそっと覗いてみた。

おじいさんは、おばあさんの手をつなぎ空いた方の手はおばあさんの上にそっと置かれ顔を寄せ合って寝ていた。

(・・・こ、こいつ・・・)
藤田は眉の間に皺を寄せた。

すぐに戻ってきた藤田に、時尾が不思議そうに尋ねた。
「沖田様はどうされましたか?」
「2人で俺たちを忘れて寝ていた。 もういい。 勝手に布団を敷いて寝てしまおう。」
「はい、分かりました」
時尾は笑いながら客室にたたんで置いてある布団を2組敷いた。

藤田は布団に横になりながら、ちっと舌打ちをした。
あいつらは昔からあぁだった。
いつも2人の世界に入って周りが見えなくなる。
もう何十年も一緒にいるくせに、まだそうなのかと思うと心底呆る。
あの頃から2人には振り回されていた。
その状態は今でも変わらないのかと自嘲気味に笑う。
しかし、やはり2人の事を見ていると微笑ましい気持ちになった。
そして40年前一緒に同士として戦っていた時の事を思い出していた。
あの2人と出会えた事を嬉しく思い、そしてこれからも2人とは生涯の友でいたいと思いながら
藤田は目を閉じた。