慟哭  8話




総司が巡察を終えて屯所に戻ってみると、別の組の隊士が近づいてきた。
「沖田先生。 文が届いております」
礼を言い、文を受け取った。

松本法眼からの手紙だった。
今すぐ仮屋へ来いとのこと。

総司は何故松本から呼び出されたのか疑問に思いながらも、そのまま松本の元へ向かった。



「おう、沖田。 案外早かったじゃねぇか」
松本は、いつもの調子で総司を向かえ入れた。
「はい、丁度巡察から帰って来た時に手紙を受け取ったもので」
総司は松本に着いて奥の部屋に足を踏み入れた。

「! お里さん・・」
「ご無沙汰してます、沖田せんせ」
部屋の中には里が座っており、不安そうな顔で総司を見上げている。

総司は、どういう事なのか訳が分からず松本を振り返った。

「ま、座れ。 話はそれからだ」
言われるまま、その場に座った。


「急に呼び出してすまなかったな。 お前に話すべきかどうか悩んだんだが、お里さんと相談して、やはりお前にしか頼めねぇと思ってな」
「一体何の話です?」
総司は話しの意図が読めず、恐る恐る訪ねた。


松本と里は、顔を見合わせてうなずきあった。
「実はセイの事なんだが・・」
その言葉に、総司は身構えた。
「セイが何故突然隊を抜けたか知りたいか?」
松本の言葉に、総司はつばを飲んだ。

「どうだ?」
「知りたい・・です。 でも・・」
もちろん知りたい。
しかし、土方が言った言葉が頭をよぎる。

「知るのが怖いか」
総司の心を読んだのか、松本が訪ねた。
「はい、怖いです。 近藤先生や土方さんが、あれ程私に隠そうとしているのですから。 知ってはいけないような気もします」
「もしかしたら、知って後悔するかもしれねぇ。 それでも、聞く勇気があるなら話す。 どうだ?」
松本は、腕組みをしながら総司をじっと見据えていった。

総司は唇をぎゅっと噛んだ。
「話してください」









「そんな事が・・」
全ての話を松本と里から聞かされた総司は、目の前が真っ暗になった。
あまりのショックに、その場に手を付いて呆然としている。

「セイは今心に大きな傷を負っている。 かなりの人間不信にも陥っている。 俺さえも近づけさせなねぇぐれぇだからな」
松本の言葉は耳には入ってくるものの、反応する事が出来ない。
「ほんまは今おセイちゃんとうちが住んでる家に沖田せんせを呼ぼうかとも考えたんどす。 でも、もしうちが呼んだのがおセイちゃんに気づかれたら、うちに対する信用までなくなります。 そやからこうしてわざわざ呼び出させてもろたんえ」
里は目に涙を溜めて悲しそうに言った。

「一体私にどうしろと言うのですか」
「恐らく今のセイにお前が会っても、セイは怯えるだろうよ。 だがな、セイを救えるのはお前しかいねぇと思ってる」
「どうして私なのですか? それに、こんな事実を私が知ったと神谷さんに知れたら、彼女はもしかしたらもう一生立ち直れないかも知れませんよ」
「そうじゃなくても、もしかしたらあいつは一生あのままかも知れねぇんだぞ。 ここにいるお里さんだって、一生あいつと一生暮らせる訳じゃねぇ。 誰かがセイを立ち直らせなければいけないんだ」
「その誰かが私だと?」
総司は、不振に思いながら松本を見上げた。
「そうだ。 お前にしか出来ねぇだろう」

「私は・・ どうしたら・・」
総司は搾り出すように声を出した。
「とにかく、1度セイに会ってくれ。 そして、どんな事があってもあいつを支えて欲しい。 きっとお前になら奴はいつか心を開くだろう」


話を終えた総司は、ふらつく足で家を後にした。

頭が混乱している。
ずっとセイが突然出て行った理由が知りたいと思っていた。
事実を知ってしまった今、聞いてしまった事を心から後悔している。
今なら、セイのあの怯えた目と総司に対しての態度も頷ける。
土方が、知らないほうが良いと言った理由も。

自分にセイを立ち直らせる事が、本当に出来るのだろうか。

総司は、その事が何よりも不安だった。
しかしこれ以上セイのいない生活を送る自信もない。
セイの事を忘れる事も出来ないだろう。

だったら、私しかいない。

総司はそう思った。
そして、何かを思いついたようにその場を歩き出した。





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