慟哭 7話話
「沖田先生」
可愛らしい声が、自分を呼んでいる。
うっすらと目を開けると、目の前には笑顔で見つめる清三郎の姿があった。
「もう朝ですか?」
目をこすりながらゆっくり起き上がると、清三郎を引き寄せてぎゅっと抱きしめた。
「もうっ 沖田先生ったら。 朝餉の時間に遅れてしまいますよ?」
腕の中の清三郎は柔らかくて、気持ちよくて更に抱きしめる腕に力を強めた。
「むぎゅっ く、苦しいですっ!!」
バタバタと暴れる清三郎が可愛くて、総司の顔も綻ぶ。
「あははっ すみません。 じゃあ、ご飯食べに行きましょうか」
腕の力を緩め、清三郎を離すと立ち上がり、手を差し出した。
清三郎はその手を嬉しそうに取り、手を繋いだ。
「・・・・っ」
目の前には見慣れた天井。
総司は一瞬訳が分からず、自分の手を掲げて見つめてみた。
周りを見渡すと、隊士達がいびきをかいて寝ている。
夢・・・
とても幸せな夢だったような気がする。
不意に隣を見てみると、空いた空間が目に入る。
今までは当たり前のように横にいた人物がもういない。
すっかりこの状態に慣れたつもりでいたのに、それは思い上がりだと知らされる。
そっと何もない隣に腕を伸ばし、その畳を撫でてみる。
以前なら、手を伸ばせばすぐに届く場所にいたのに・・・
夢の中の笑顔を思い浮かべた。
自分の隣で、いつも幸せそうに微笑んでいたあの子。
会いたい。
何故そこまで彼女に執着するのか自分でも良く分からない。
堂々巡りの考えに、頭が痛くなってきた。
そっと起き上がり、他の隊士達を起こさぬよう静かに部屋を出た。
顔でも洗おうと井戸まで来ると、そこには斉藤がいた。
「斉藤さん、こんな夜中にどうしたんですか?」
総司の呼びかけに、ゆっくりと斉藤は振り返った。
「沖田さん。 あんたこそどうした」
無表情で問いかける斉藤に、総司は苦笑いした。
「何だか眠れなくて。 顔でも洗おうと思ったんですよ」
「ふーん」
「斉藤さんはどうして?」
総司は、井戸に近づき水を汲みながら問いかけた。
「・・・・・・実は神谷に似た女子を見た」
ボチャンッ
途中まで引き上げていた桶を、思わず落としてしまった。
「神谷の兄の墓参りに行った帰りに、すれ違った女子がいた。 顔は伏せていたが、妙に神谷に似ている気がしたんだ。 その娘を振り返ると、あいつの父親と兄の墓の前に座った」
淡々と話す斉藤を、総司は何も言えずじっと見ていた。
「俺も、似ていると思っただけで話しかける事はしなかった。 今考えると、あれは神谷本人ではなかったのかと思う」
「墓・・・」
総司は、まずその女子がセイだと確信した。
しかし、斉藤は清三郎が女だという事を知らない。
「どうした? 沖田さん」
斉藤を見つめながら、眉間に皺を寄せている総司を、斉藤は怪訝に思った。
「あっ、いえ」
ハッとした総司は、慌てて握っていたつるを引き上げた。
「ま、会いたいと思う気持ちが神谷と思わせただけかも知れんがな」
「えっ? 会いたい?」
斉藤から意外な言葉を聞いた総司は、思わず聞き返した。
「神谷は友人の弟だからな。 そう思って当然だと思うが?」
「そうですね・・」
斉藤の清三郎に対する想いを知らない総司だが、何故か斉藤が会いたいといった言葉に嫌な感情が芽生えた。
それは、中村が自分よりも先に女子になっていたセイに会っていた時に感じた感情と同じだった。
「まだ夜明けは先だ。 俺はもう寝る」
「おやすみなさい」
総司は、斉藤が去っていく後ろ姿を見つめた。
墓か・・
総司は、くみ上げた水をパシャ顔にかけた。
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