慟哭 6
総司達の元から逃げるように走ってきたセイは、ある家の中に入ると、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
体中の震えが止まらない。
「おセイちゃんっ?」
部屋の奥から、セイの気配を感じた里が出てきた。
「どないしたん!?」
里は、急いでセイに駆け寄り顔面蒼白でガタガタと震えているセイを抱きながら、優しく背中を摩った。
「大丈夫。 ここには私とまー坊しかおらしまへん」
優しく語り掛ける。
最近は、こんな風に突然震えながら、時には涙を流しながら帰って来るセイをあやす事も少なくはない。
しかし、今回のセイの様子はいつも以上に何かおかしい。
徐々に落ち着いてきたセイに、里は静かに訪ねた。
「今日は、どうしはったん?」
その問いに、またセイの顔は強張った。
「言いとうなかったら無理に言わんでええんよ?」
「・・・・沖田・・先生が・・」
「え?」
「沖田先生が・・・いた・・」
セイの消え入るような言葉に、里の顔色も変わる。
「それで? おセイちゃんどないしはったん?」
「どうして良いかわかんなくて・・・・ 走って逃げて来ちゃったの・・」
里は、セイに気づかれないよう小さくため息をついた。
今のセイの状態を治せる人物がいるとしたら、それは沖田総司しかいないだろう。
里はそう思っていた。
松本法眼ですら、医学では治せないと言い切った。
しかし、セイ本人が沖田に頑なに会いたがらない。
里は、どうして良いか分からずただ悲しげに腕の中で震えているセイを見ていた。
伏見での隊務を終えた総司は、屯所に戻るなり土方の部屋へ向かった。
「総司です」
土方の返事を待たず、部屋へ入る。
「今帰りか?」
部屋に入ってきた総司に向き直ることもせず、文机に向かい書き物をしながら訪ねた。
「はい。 土方さんに聞きたい事があります」
心なしか声に棘を含んだ言葉に、土方が筆を置いた。
「何だ?」
総司は、土方のすぐ横にどかっと座った。
「神谷さんは、大阪の商家に嫁いだはずでは?」
「・・・その前に報告する事があるだろう」
総司の問いには答えず、土方は静かに言った。
総司はしばらく土方を睨むように見ていたが、任務の報告を始めた。
「そうか、分かった。 終始上手くいったという事だな。 良くやった。 もういいぞ」
全ての報告を聞き終えた土方は、それで話を終わらせようとした。
「ちょっと待ってくださいよ! さっきの話がまだでしょう」
「その事については、俺から話す事は何もねえな」
もう話は終わりだと言わんばかりに、また筆を持ち書き物を始めた土方を、総司はじっと見ている。
「神谷さんが隊を抜けた本当の理由は何ですか」
「知らん」
そっけなく答える土方に対し怒りを覚えるが、それでも総司は冷静に訪ねた。
「神谷さんに会いました。 京にはいないはずではなかったのですか」
「神谷に会っただと?」
思わず土方の筆を持つ手が止まり、総司を振り向く。
「はい。 かなり痩せてました。 顔色もよくなかった。 とても嫁いで幸せになっているとは思えませんでした。 これは一体どういう事ですか」
しばらく総司を見ていた土方だったが、何も言わず顔を逸らした。
「お願いします、土方さん。 神谷さんが隊を抜けた理由を教えて下さい」
「あいつが」
「え?」
「あいつがお前だけには知られたくないと言ったんだ」
「ど、どういう事ですか」
「これ以上は何も言えん。 俺も近藤さんもあいつと約束をした」
「何をですか!」
総司は土方に掴みかかった。
「いい加減にしろっ! 本人が誰にも知られたくないと言ったんだ。 特にお前には」
「な・・ぜ・・?」
総司は、掴んでいた土方の襟を離し、その場に手をついた。
「あいつには今後会うな。 それがあいつの為でありお前の為でもある。 これ以上あいつを追い込むんじゃねぇぞ」
どうして自分が会いに行くとセイを追い込む事になるのか。
「もう神谷の事は忘れるんだな。 そっとしといてやれ」
話は終わりだと言い、横でうなだれている総司を無視して再び書き物を始めた。
総司はふらふらと立ち上がり、土方の部屋を出た。
自分の存在が彼女を追い込む事になる・・?
あれ程いつも一緒にいたのに?
信じられない言葉を土方から投げられ、総司の頭は混乱していた。
神谷さん 一体何があったのですか?
7話へ