慟哭 5




この日、総司は相田と山口を伴い任務で伏見へ向かっていた。

「沖田先生・・ これじゃいつになっても伏見に着きませんて・・・」
「だってこの団子なかなか手に入らないんですよ?」

甘味処を見つけては立ち寄り、買って食べている総司を、隊士達は呆れながら見ていた。

「はぁ〜・・ こういう時あいつがいてくれたらなぁ・・」
「そうだよな。 俺らじゃこういう時どうして良いかわからんねぇもんな・・」

「あっ! あの心太美味しそうですねぇ!!」
本格的な隊務が夜からなのを良いことに、総司は次から次に店をはしごしようとしている。

「あっ あれ中村じゃねぇか?」
山口が指差した方向に、辺りをキョロキョロしながら歩いている中村五郎がいた。
「あいつ何やってんだ?」
この辺りは、既に屯所である西本願寺からは離れた距離にある。
仕事以外でここまで来るには、何か目的がないと来ないような場所だ。

「何か探してるみたいだな」
中村はかなり挙動不審だった。
誰かを探している風であり、時々ため息をついたりしている。



「泥棒っ!」
その時、遠くのほうから叫び声が聞こえた。

声のした方を向くと、こちらへ走ってくる男が見えた。

総司達はその男の前に立つ。

「何やお前らっ! そこどけやっ!!」
「盗んだものを返しなさい」
先ほどまで甘味を選んでいた時の総司とは思えない冷たい目で総司は男を見た。
「うっ うるさいっ! ええからそこどけっ!」
「怪我をしたくないでしょう? 素直にいう事を聞いたほうがあなたの為ですよ」
静かにそういう総司に、男はじりっと後ずさりした。

そして、そこへ運悪く歩いてきた少女の腕を掴んだ。

「きゃっ」
娘の首に腕を回し、隠し持っていた刃物を首に突きつけた。
「それ以上近づいたら、この女を切りつけたるからな」

総司達は、人質になった少女を見た瞬間、はっと息を飲んだ。

「か・・神谷・・?」
思わず相田がつぶやく。

娘は、顔色を失くし、男の腕の中でガタガタと震えている。

総司は自分の目を疑った。

男に掴まれている少女は、間違いなくセイだった。
どうしてここにいるのか。

セイに似た少女は、ぎゅっと目を瞑っている。

「本気やで! お前らそこどけっ!」
少女に突きつけた刃物を、首にピタっとつけ尚も男は総司達に叫ぶ。

総司はギリっと奥歯をかみ締めた。
どうやって男から少女を救おうかを必死に考えていた。


「うわぁっ!!」
突然男が前の目にに倒れ、つかまれていた少女も一緒にその場に倒れた。
様子を伺っていた五郎が、男を後ろから蹴り倒したのだ。

その瞬間、総司達は男を取り押さえた。

「すみません! どなたか番屋をお願いします!」
総司が叫び、町人が何人か番屋を呼びに走りだした。

男を相田と山口に任せ、総司は少女に振り返った。


「大丈夫ですか?」
中村が少女の前に膝を突き、少女に話しかけている。

少女は、立ち上がる様子もなく震えており、はぁはぁと大きく息をしている。
総司も近寄った。
「た・・立てますか?」
総司が、少女に向かって手を差し出した。
すると、少女がビクっとして身を引いた。

神谷さん と呼びそうになる。
しかし、この少女がセイだと皆に知られてしまう。
総司は、微かに震える手をさらに少女に向かって伸ばした。

バシッ

「え・・?」
総司が差し出した手を、少女は思い切り振り払った。

「あ・・ あ・・の・・」
少女は震えたまま、視線を宙に彷徨わせた。

「すみません、大丈夫です。 1人で立てます」
そういうと、ふらふらと立ち上がった。

その様子を、一同固まったまま見ていた。

少女は、「すみません」と小さい声でつぶやくと、どこかへ小走りに走って行ってしまった。

総司は、何が起きたのかを理解出来ないまま、小さくなっていく少女の後ろ姿をみていた。

「お、沖田先生・・?」
五郎が恐る恐る総司を呼びかけた。

「・・・・・何でしょう?」
五郎を見ないまま、総司は答える。

「今の娘さん・・ 神谷に・・ 似てますよね」
総司はその問いには答えなかった。

「前に1度会った事あるんですけど・・」
「え?」
「その時も、あんな感じだったんです。 俺、1度会ったあの子がどうしても気になって毎日探しに来ちゃって・・」

どうやら、五郎はあの少女がセイだとは思っていないようだ。
番屋へ男を引き渡した相田と山口も、総司の元へやってきた。

「さっきの子は・・ 神谷じゃあないですよね?」
「違います」
きっぱりとそういう総司に、相田と山口が顔を見合わせた。
「そ、そうだよな・・」
「いくら例の病があったからって言っても、さっきの人は完全な女だったしな」
そういうと2人はははっと笑った。

「では私たちはもう行きます」
「あ、はい。 気をつけて・・」
中村をその場に残し、総司達3人は伏見へ向かった。



先ほどの少女は間違いなくセイだった。
自分が見間違うはずがない。
しかし、どうしてこんな所にいるのか。
以前に比べ、かなり痩せているように見えた。
顔色もよくなかった。
そして、何より嫁いで幸せになっているはずが、とてもそんな風には見えなかった。
以前のセイなら、もしあんな風に掴まれ刃物を突きつけられても、怯えたりはしなかったはずだ。
一体彼女に何があったのか。
何より、何故彼女は自分の手を振り払い、自分から逃げるように去って行ったのか。
総司は、先ほどのセイの行動全てにショックを受けていた。





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