慟哭 4
中村五郎は非番を持て余していた。
「何すっかな・・」
特にやる事もなく、町をぶらぶらしているうち、かなり屯所から離れた場所まで来ている事に気がついた。
「しまった・・ ここはどこだ?」
辺りを見渡してはみるが、全く見覚えのない場所。
取り合えず来た道を振り返ってみるが、ここは京。
道が入り組んでいる上、ぼーっとしながら歩いてきた為どこをどう歩いてきたのかも思い出せない。
「やべぇ。 完全に迷った」
焦ってぐるぐると曲がり角に入って行く度にどんどん深みにはまっていっているようだ。
「大丈夫ですか!?」
突然聞こえてきた声に、立ち止まった。
声のした方を見てみると、女がうずくまりその傍らには若い娘がうずくまった女の背中をさすっている。
「近くのお医者様まで歩けますか?」
娘が女に話しかけてはいるが、女は弱弱しく首を振るだけだった。
手をかけて立たせようとするが、娘の力では難しいようだ。
「どうしました?」
五郎は、見かねて声をかけた。
「え・・」
五郎の声に見上げた娘の顔を見て、五郎は驚いた。
「か・・かみ・・や?」
五郎の顔を見た娘は、みるみる青ざめていく。
「神谷・・なのか?」
清三郎に良く似た娘は、すぐに顔を女に向けた。
「この方が急に産気づいてしまったようで・・」
娘は、五郎を見ないまま答える。
五郎ははっとして女を見た。
女は顔を真っ青にして、額からは脂汗が出ている。
うずくまっている為、遠目からは分からなかったが腹が随分大きい。
「俺が連れて行きましょう」
そういうと、五郎は女を抱き上げた。
「医者はどこですか?」
清三郎に似た娘に尋ねると、娘は五郎と顔を合わせないまま「こちらです」と五郎を案内した。
「後はこちらにお任せください」
女を医者へ連れて行き、部屋へ寝かせると医者はそういった。
「宜しくお願いします」
そういうと、五郎は医家を出ようとした。
戸の傍らには、さきほどの娘が立っている。
娘は下を向いたまま五郎の方を見ようとしない。
「娘さん、先ほどはすみませんでした。 あなたが知り合いに似ていたもので」
五郎は、こちらへ女を運んでいる間に、この娘が清三郎な訳がないと思っていた。
いくら例の病気があったとしても、この人は女子だ。
それに、清三郎よりかなり痩せているように見える。
良く似ている他人だ。
「いえ・・・」
娘が小さく答える。
「すみません、実は道に迷ってしまったんです。 西本願寺まではどうやって行ったら良いか教えてもらえませんか?」
「・・・」
下を向いたまま答えない娘に、五郎は苦笑いした。
「あ、そっか。 西本願寺分からないかな・・ 何て言えば良いんだろう・・ 俺も実はこの辺詳しくなくて、住所とか良く分からないから・・」
「・・・途中まで・・」
「えっ?」
「途中までで宜しければ案内します」
娘は小さな声で答えた。
「本当ですか? 助かります」
そういうと、娘は医家を出て歩き出した。
それに五郎も続く。
歩いている間、娘は俯き加減で一言も話そうとしない。
「すみません、助かります」
五郎が声をかけるが、反応はない。
「あ、あの、俺新撰組の隊士で中村五郎って言います。 もし良かったら名前・・聞いても良いですか?」
思い切って、名前を尋ねてみた。
「・・・」
やはり娘は何も答えない。
「別に何もしません。 せめて名前だけでも・・」
「そこを右に曲がってまっすぐ行けば、西本願寺方面です」
「え、あの・・」
娘はそれだけ言い、軽く会釈すると着た道を戻ろうとした。
「あ、ちょっと待って」
五郎が呼び止めるが、娘は立ち止まらず足早に去って行った。
しばらくその後ろ姿を見ていたが、やがて諦めて教えてもらった道を歩き始めた。
それからと言うもの、五郎の頭の中は清三郎に似た娘の事でいっぱいになった。
もう1度会いたい。
名前だけでも知りたい。
そう思い、その後何度かその場所に足を運んでみたが、それから娘に会うことはなかった。
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