巡察から戻ると、斉藤が近づいてきた。
「あ、斉藤さん」
総司も笑顔で斉藤に顔を向けた。
「あんたに話がある」
良くは分からないが、顔が強張っているようにも見える。
総司は嫌な予感を感じながら、了承した。
ひと気のない場所まで来ると、斉藤は総司に振り返った。
「神谷を見つけた」
そのひと言に、総司の血の気が引いた。
斉藤の口調は厳しく、どこか総司を責めているようにも聞こえた。
やはり見つかってしまったか。
いくら気を付けているとはいえ、セイの住んでいる家は屯所からは眼と鼻の先。
今は毎日のように診療所に通っている今、見つかってもおかしくはない。
「・・・・・」
総司は何と言って答えて良いか分からず、曖昧な笑みを返した。
「やはりあんたが関わっていたのだな」
その言葉に、総司はやはりどう反応して良いか分からなかった。
中村と違い、斉藤には隠す事など出来ないだろう。
総司は観念した。
「ええ、そうですね」
ひと言そう答えると、斉藤は"やはりな"というようにゆっくりと息を吐いた。
「あの、斉藤さん。 実はあの人は…」
「女だったか」
言いかけようとして、斉藤が言葉を遮った。
「えっ」
「あれはどうみても、病が成せる業ではないように見えた。 あいつは、本当は女だったんだな」
静かにそう語る斉藤に、総司はじっと斉藤の顔を見ていたが、ゆっくりと頷いた。
「ふん。 やはりそうか。 あいつがここを出て行ったのは、それが原因なのか」
「…いいえ。 女子だとバラしたのは、神谷さん本人です。 本当の原因は他にあります。 でも…」
口ごもった総司を、斉藤は怪訝な表情を見せた。
「何だ」
「それを話すと長くなります。 それに、私から簡単にお話しても良い内容ではありません」
「なるほど。 なら俺からは何も聞くまい」
あっさり引き下がった斉藤に、総司はホッと息を吐いた。
「でも、斉藤さんならあの人も会いたいと思います」
「は?」
「もし時間があれば、1度顔を出してあげて下さい。 きっと喜びますよ」
「・・・・」
総司の心の内を読もうと、斉藤はじっと総司の顔を見た。
「あ、でもあの人今は少し不安定な状態なんです」
「不安定?」
「ええ。 でも傍目には何も変わった様子はありません。 ですが、あまり隊の事とか… そう言う事は話さないようにしてもらえませんか」
「・・・・・分かった」
それ以上は、斉藤は何も言わなかった。
何か考えている様子だ。
「では私は土方さんのとことへ行かなければいけないので」
「あ、ああ。 時間を取らせて悪かったな」
斉藤に微笑んで軽く会釈すると、総司はその場を離れた。
斉藤の姿が見えない所まで来た総司は、壁にもたれると大きく息を吐いた。
やはり見つかってしまった。
しかしこれが斉藤で良かった。
彼なら、変に騒ぎ立てたり彼女に何があったのかと詰め寄ったりはしないはずだ。
何より、セイ自身が尊敬して慕っていた人物だ。
斉藤に会う事が、元気になれるきっかけになるのではないかと思った。
しかしその反面、このままセイをあの場に置いておいて良いのかという不安が頭をよぎる。
このままでは、他の隊士が気づくのも時間の問題だろう。
「おセイちゃん」
「あっ、お里さん」
セイは嬉しそうに微笑むと、戸を開けて立っている里に近づいた。
「どうしたの?」
里が仕事中のセイの元へ来るなど、初めての事だ。
外へ出てみると、そこには正一もいた。
何やら荷物を背中に抱えている。
「正坊まで。 何かあったの?」
2人を見比べながら、不思議そうにセイが訊ねる。
「実は実家から文が届いてん…」
そう言うと、セイに文を渡した。
そこには、母親が倒れたとあった。
具体的な病名などは書かれておらず、何があったのか文からは読みとる事は出来ない。
それを見た里は、慌てて旅支度をし、正一を連れて実家のある大津へ向かおうとしたのだ。
「おセイちゃん、ここでのお勤めあるし… それに一緒に大津まで連れて行く訳にいかへんからうちと正坊とで様子見に行こ思てるんやけど…」
「そうなんだ… 何ともなければ良いのにね…」
セイは心配そうに文を畳んだ。
「ありがとう。 でも… おセイちゃん、大丈夫やろか?」
「え?」
「しばらくあの家に1人になってしまうやろ?」
「あっ…」
里の言葉に、セイは小さく声を上げた。
「それが何よりも心配で…」
困ったような顔をしている里に、セイはにっこり微笑んだ。
「大丈夫。 気にしないで行ってきて」
「そやけど…」
「本当に大丈夫だから。 今は私の事よりお母さんの事の方が大事でしょ」
「・・・・」
それで申し訳なさそうに下を向いている里に再度笑いかけると、正一を見た。
「正坊、旅の途中お里さんに何かあっては困るからね。 ちゃんと守ってあげてね」
「うん。 うち里姉ちゃん守る」
自信満々にそう言う正一に、セイと里は噴き出した。
「そら心強いわ」
その後別れを告げると、里は正一を連れて旅立って行った。
姿が見えなくなるまで見送ると、セイは診療所の中へと戻った。
「おセイさん、道具箱持ってきてくれるやろか?」
患者の相手をしている坂本が、セイが戻ったのを確認すると声をかけてきた。
「あ、はい。 今すぐ」
そう言うと、セイは急いで道具箱を取りに向かった。
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