慟哭 28話




とぼとぼと歩きながら、総司は先ほどのセイとの会話を思い出していた。
気が付いたら、頓所を抜け出してセイの元へやってきてしまっていた。

昨夜、土方とした会話。
何の迷いもなく、セイを嫁がせようとした自分。
彼女にすっかり笑顔が戻れば、更に幸せになってもらいたい。
その為には、どこか良い嫁ぎ先を探してやらなければ。
本心でそう思った。

1人になり布団にもぐりこむと、知らず知らずのうちに知らない男の元で幸せそうにしているセイの姿を思い浮かべていた。
どんなに他の事に意識を移そうとしても、どうしても頭から離れない。
そうなって欲しいと思っているはずなのに、心臓が痛む程苦しくなった。
自分以外の男に笑いかけているセイを、想像するだけでこんなにも辛いとは。

そう思うといてもたってもいられず、ひと目で良いから元気なセイの姿を見たいと、気付くとセイに会いに来てしまっていた。
時間を考えれば寝ていて当然なのに、それでもセイは自分に気づいて出てきてくれた。
久しぶりに会う彼女は、やはり可愛らしくて、この上なく愛おしいと感じた。
それまでの体の不調が嘘のように楽になれた気がした。


本当にセイを手放すコトが、自分は出来るのだろうか。


総司は、ギュッと手を握ると足早に頓所へ戻った。






「お前、どこほっつき歩いてやがった」
部屋へ戻ると、そこには怒りを含んだ瞳でこちらを見る土方がいた。
「土方さん、おはようございます」
ニコニコと笑いながら、総司は何事もなかったかのように布団に潜り込んだ。

「まさか、夜中に逢引きとはなぁ」
「はあ?」
「他人の目盗んで抜け出すなんざ、逢引き以外に何があんだよ」
総司は真っ赤になって起き上った。
「逢引きじゃありませんっ! 最近ずっと会えてなかったから心配で顔を見に行っただけですっ!」
「やっぱりあいつんとこ行ったんだな」
「・・・・・・・・」

うっかり土方の誘導尋問に乗ってしまったコトに、総司は思わず口をつぐんだ。

「女に会いにいくほど元気なら、もうこんなとこで養生する必要もねえな。 今日から隊務に戻れ」
その言葉に、総司の顔がぱあっと明るくなった。
「やっとですかっ!」
勢い良く布団を飛び出ると、せっせと畳み始める。
その様子を、土方はくっくっと笑いをかみしめてみている。

「じゃあ早速朝餉を頂いて来ますねっ」
土方をその場に残し、総司は元気に部屋を出て行った。



「なーにが"良い嫁ぎ先を見つけてください"だ。 あいつに会った途端、あんな元気になりやがって」

元々総司の病は、松本に言わせるとただの夏風邪だったのだ。
それがいつになっても良くならない。
その原因は、心にあるのだと土方は踏んでいた。
きっと病で弱っていた心が、心底セイを欲していたということだろう。
以前までは、何かあっても同屯所内で常に一緒にいた2人だ。
こうして病で倒れた時に1番会いたいと思う人間がいないということが、総司にとっては何よりも痛手だったのだろう。
しかしセイの存在を公に出来ない状況では、堂々と総司をセイの元へやる事も、セイを屯所に呼ぶ事も出来なかった。
それにセイの精神状態を考えると、大した事はなくても総司が病だと伝えると心配してまた元に戻ってしまうかもしれないという
不安もあった。

だから、昨夜敢えてセイの話を出したのだ。
案の定、総司はすぐにセイの元へ会いに行った。


嫁ぎ先の話を撤回してくる日も遠くないだろうと、土方は1人笑いながら部屋を後にした。






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