慟哭 27話




突然目の前には、見知った顔の男たち。
男たちは、じりじりとこちらへ詰め寄ってくる。


謀られた!!


そう気づいた時には、既に遅かった。


ゆっくりと間をとりながら、どうにか逃げ道を探る。


男たちの1人が、ニヤニヤしながら唇を舐めた。
それを見て、あまりの不気味さに我を忘れた。

その場を駆け出し、無我夢中で走って逃げた。
足の速さとすばしっこさには自信があったが、男たちは難なく先回りして腕を掴んだ。

「いやぁっ!!」

叫んで腕を振り払おうとするが、すぐに追いついた別の男たちにも後ろから羽交い絞めにされた。

「やめてっ!!」

必死で抵抗するが、獣のような眼をした男たちはすっかり理性を失っていた。

気持ち悪く笑いながら、着物の襟を掴んできた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」












「・・・・・っ!!!」

セイは勢いよく飛び起きた。


はぁはぁと、荒い息を繰り返す。




夢・・・・・




額に掻いた汗を袖で拭う。



久し振りに見た、あの時の夢。
ここ最近見なくなっていたのに。

セイは息を整えながら、ひざを抱えて頭を埋めた。


こうなると、もう眠る事が出来なくなる。
これまでもそうだった。
再び寝て同じ夢を見るのが怖いのだ。

顔を顔を上げて障子を見た。
まだ外は薄暗い。
起きるわけにもいかず、仕方なく布団の中にもぐって朝になるのを待つことにした。
バクバクと高鳴る胸を抑え、どうにか先ほどの夢を忘れようとする。



トン・・・・     トン・・・・



「?」

微かに聞こえた音に、セイは再び身を起こした。

どこから聞こえてくるのだろうかと耳を澄ました。


トン・・・


外から聞こえてくるようだ。

セイは布団から出ると、襖をそっと開けて隣の部屋を覗いた。

里と正一は音に気づいていないらしく、気持ち良さそうにぐっすり眠っている。


セイは部屋を出て勝手口に降りた。
そして、戸に手をかけたところで動きを止めた。

先ほどの悪夢が頭をよぎる。


もしも悪漢などだったりしたら、どうしよう。
ここには女と子供しかいないという事を知っている者が、侵入しようとしているのではないかと思うと、セイは恐怖で
動けなくなった。


やっぱり外に出るのはやめようかと、セイは戸口から離れたその時。


カサッ


戸のすぐ向こう側で、再び音が聞こえた。
戸に耳を当てて外の様子を覗ってみるが、それ以上は何も聞こえない。

セイは、思い切って戸に手をかけそっと開けて外を覗いてみた。


「えっ!?」

そこにいる人物に、セイは驚いて声を上げた。


「お、沖田先生っ」

そこには、戸の横に座りこんでいる総司の姿があった。

「神谷さん」
セイの顔を見ると、総司はにっこりと微笑んだ。

セイは驚きながらも、2人を起こしてしまわぬよう外に出て戸を閉めた。
そして、総司の前に膝をついて座った。
「どうしてここに?」
その問に、総司はふふっと笑った。
「さて・・ どうしてでしょうか」
「はい??」
訳が分からず思わず聞き返した。
「ずっと来れなくて、すみませんでした」
「いえ、そんなの気にしないで下さい。 それよりも、なぜこんな夜中に?」
「いえね、ちょっと体壊してしまったんですよ。 それで寝過ぎたらこんな夜中に目が覚めてしまって。 眠れなくなってしまったので来てしまいました」
「体壊したって・・ 大丈夫なのですか?」
セイは心配そうに総司の顔を覗き込んだ。
「あははっ もう何ともありませんよ。 ただ土方さんが心配症だから、なかなか外に出させてもらえなかっただけです」
「本当に?」
尚も心配そうに訊ねるセイを見て、総司はうれしそうに微笑んだ。
そして、セイの腕を引き自分の胸の中に閉じ込めた。
「先生??」
「大丈夫です。 あなたの顔を見たら、もうすっかり良くなりました」
「・・・・またそんな事言って。 こんな夜中に抜け出してくるだなんて、また酷くなったらどうするんですか?」
怒ったような口調でそう言うセイに、総司はふふっと笑った。
そして、更に腕の力を強めた。

「会いたかったんです。 とても」

あまりに小さく弱々しい言葉に、一瞬セイは聞き逃しそうになった。

「え・・」


「眠れなくて・・・ そしたらあなたの事考えちゃって。 随分会ってないなと思ったんです。 そしたらどうしても気になってしまって。 寝てるだろうとは思ったんですよ。 でももしかしたら会えるかなと思って来ちゃっいました」
「・・・」

セイは、今が薄暗くて良かったと思った。
きっと今自分の顔は真っ赤になっているだろう。
まるで総司の言っている言葉は愛の告白のようだ。
本人にはそのつもりは全くないのだろうが、誰がどう聞いてもそう聞こえるだろう。


「先生、何かあったのですか」
思わずそう訊ねてしまった。
総司が突然こんな事を言うのはおかしい。
何かあったからに違いない。

「何もありませんよ。 ただ・・ ずっと布団の中で1人でいたのが淋しかったんです」
「・・・・なるほど」
そういう事か。
きっと、土方のことだから総司の事を考えて別の部屋を用意しゆっくり休ませていたに違いない。
それが総司にとっては淋しかったという事なのだろう。
そして相手にしてくれそうなセイの元へやってきたという訳か。


「ではそろそろ帰ります」
そう言うと、総司はセイをそっと引き離した。
「黙って出て来ちゃったから、皆が起きる前に帰らないと土方さんに見つかったらまた叱られちゃいます」
「またって事は、もう叱られたのですね」
「ええ、昼間あまりにも暇で、屯所内をうろうろしてたら、何やってんだ!!って怒鳴られました」
いたずらっ子のようにそう言った総司に、セイはふふっと笑った。
「じゃあ早く帰った方が良いですよ。 ちゃんと寝て、早く良くなってくださいね」
「分かりました。 すっかり治ったら、また来ますね」
「はい。 いつでもおまちしています」

総司はゆっくりとその場に立ちあがると、セイの手を引き立ち上がらせた。

「ごめんなさい、起こしてしまって」
「いいえ、たまたま目が覚めただけなので大丈夫です」
「ありがとう」
総司はにっこりと微笑むと、「ではまた」と言って屯所に向って帰って行った。
その後ろ姿をセイは見送る。


総司の姿が見えなくなると、家の中に戻った。


悪夢のせいで暗い思いになっていた心の中が、晴れやかになっている事に気がついた。

沖田先生・・・

先ほど抱きしめられた時の総司のぬくもりを思い出し、セイは幸せそうに微笑んだ。



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