慟哭 26話
「問題はねえな。 今のところ順調だ」
「ありがとう」
診察を終えたセイは、着物を整え笑顔で答えた。
「礼は俺じゃなくて沖田に言え」
「え」
「お前をここまで治したのは俺じゃねえ。 お前が1番よく分かってるだろ」
松本にそう言われ、セイは顔を赤らめた。
それを見た松本は、くくっと笑った。
「その様子じゃ、うまくいってんだな」
「えっ」
「あ、いや、何でもねえ。 気をつけて帰れよ」
「う、うん」
赤面した顔を両手で隠しながら、待っていた里の所に小走りで向かった。
その様子を、松本はうれしそうに微笑みながら見送った。
「お帰りなさい、土方さん」
土方が部屋に入ると、寝ていた総司は慌てて体を起こした。
「起きんな。 寝てろ」
そう言うと、土方は総司の隣に座った。
「ほら、薬だ」
「すみません。 私なんかの薬を副長に取りに行かせちゃって」
総司は力なく笑った。
「阿保か。 そんな事気にすんな」
そこへ、茶と水を持った隊士が入って来た。
総司に薬を飲ませると、自分は茶をすすった。
「それで、どうでした?」
再び布団に横になった総司は、はやる気持ちを押さえて訊ねた。
「何の事だ?」
「もう、土方さんたら意地悪なんだから」
「気になるか」
「当たり前でしょう。 それに、土方さんだってあの人の様子が気になったから、わざわざ法眼のところへ行ったんでしょ?」
総司はぷくっとほっぺを膨らませた。
「別に気になったわけじゃねえ」
「ねえ、神谷さんはどうだったんですか?」
改めて訊ねる総司に、土方はふふんと鼻を鳴らして笑った。
「まあ元気そうだったな。 顔色もかなりだいぶ良くなってるように見えた」
それを聞くと、総司は満足そうに微笑んだ。
「良かった。 ずっと会いに行けてなかったから、心配しちゃいましたよ」
「お前は夏場になるとすぐ倒れるからな」
呆れたようにはぁっと息を吐いた。
「そんな事ありませんよ。 たまたまですよ、たまたま。 それに今すぐだって隊務に戻れるのに」
「熱が下がったばかりなんだ。 無理すんな」
「そうやって寝たきりにさせるもんだから、神谷さんのところにも全然行けないじゃないですか」
口を尖らせて言う総司を、土方は横目で見た。
「そういや総司。 お前どうする気だ?」
「えっ?」
不思議そうに土方を見上げる。
「あいつの事だよ」
「どうするって?」
「もう気づいてるんだろ、自分の気持ちに」
その言葉に、総司は顔を真赤に染めた。
「な、何ですか、急に」
「あいつも元気になった。 それに年頃だ。 そろそろ今後の事を考えても良いんじゃねえのか」
「今後の事って・・」
「嫁がせても良いんじゃねえかって話だ」
総司はハッとした顔を土方に向けた。
「嫁がせる?」
「まさかずっとあのままにしとく気か?」
総司は顔を曇らせた。
「そんな・・ そこまでの事、考えてませんでしたよ。 ただ私はあの人を元に戻したくて」
「まだ完全にはあいつも元に戻っちゃいねえ。 別に今すぐにと言ってる訳じゃない。 だがいつまでもあのままで良い訳は
ねえだろ」
その言葉に、総司はある事を思い出した。
セイが姿を消した当初、大阪の商家へ嫁いだと聞かされた。
その時総司は自分の気持ちには全く気付いてなかった。
それなのにセイが嫁いだと聞かされた時に感じた胸の痛み。
セイへの恋心を認識した今なら尚更だ。
それでもいつかはセイを幸せを見届けなければならない日は来るのだ。
「そう・・ですね。 あの人には幸せになってもらいたいですから」
「あん?」
「もう少し様子を見て、すっかりあの人が元通りに元気になれたら、どこか良い嫁ぎ先を探してもらえますか」
土方は、総司の言った言葉に対して、溜息をついた。
「お前は、あいつを他人に嫁がせる為に今まで散々面倒見てきたのかよ」
「え?」
「あいつが誰とも分からねえ奴の元に嫁いでも、お前は良いと思ってるのかって聞いてんだよ」
「あの人が幸せになれるなら、私は満足ですよ」
「そうかよ。 お前がそれで良いなら俺からは何も言う事はねえな。 お前の好きにするんだな」
「・・・・」
黙り込んだ総司を一瞥すると、土方はその場を立った。
「じゃあ俺は戻る。 お前はまだ寝てろよ」
「はい・・ ありがとうございます・・」
土方が出て行った襖を、総司はじっと見つめた。
土方に言われるまで、そんな事全く頭になかった。
セイをどうにか笑顔を取り戻させたい。
それだけを考えていた。
元に戻れば土方の言ったように、その後の事を考えなければならない。
いつまでもこのままでいいはずがないのだ。
総司はもやもやとした気分のまま布団にもぐりこんだ。
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