慟哭 24話




「最近沖田せんせ来はらへんね」
「うん・・」
縫物をしながら、里が訊ねた。
その言葉に、セイも淋しそうに下を向いてしまった。

総司と祭へ行ってから、数日が経つ。
以前まであれほどしょっちゅう遊びに来ていたのだが、ぱたりと来なくなった。

「隊務が大変なのかも知れない」
幹部である総司は、急に特命が入ったのかも知れない。
何よりも、ここに総司が来なければならないという義務もない。
だが、こうも急に来なくなった総司に対して、セイは淋しさを感じていた。

「何やろ、あれ」
「え?」
里の不思議そうな声に、セイは顔を上げた。
指さす方を見ると、庭の生垣に、ぴょこぴょこと頭が見えたり隠れたりしている。
「・・・さぁ」
「何や気味悪いなぁ」
まるで中を覗こうとしているような行動に、里は眉をひそめた。


「ただ今っ!!」
そこへ、大きな声で正坊が帰って来た。

大きな足音を立てて中に入って来た。
「何や変な奴が家ん中覗こうとしてんで」
「えっ」

正坊の言葉に、2人は再度庭を見た。
数回頭が見えたり隠れたりしていたのだが、少しすると諦めたのか見えなくなった。

「行ったんやろか?」
「う、うん・・」
セイは微かに震える手を握り締めた。
総司のお蔭で元の明るさを取り戻したように見えるセイだが、やはりまだ恐怖心は残っている。

「何やろね? 大丈夫? おセイちゃん」
青ざめているセイの顔を覗き込むと、心配そうに里は訊ねた。
「大丈夫」
セイは里に笑顔を見せた。

「正坊、どんな人か見たん?」
里が訊ねると、正坊はその場に座った。
「うん! 何や若いお侍さんみたいな人やった。 目がこーんなんやったで」
そう言うと、正坊は自分の指で眼を釣り上げさせてみた。

それを見ると、里とセイは顔を見合わせた。

中村五郎・・・

「おセイちゃん、それってこの前の・・」
「うん、たぶん・・」
いつの間に家を嗅ぎつけられたのだろう。
セイの心にモヤモヤとしたものが広がった。

「そろそろ時間やけど、行ける?」
顔が曇ったセイに、心配そうに里が訊ねる。
「うん・・」
「今出たら、もしかしたらどこかで待ち伏せしてるかも知れへんよ」
「もしそうだったとしても、知らん顔するから大丈夫だよ」
「そう・・」

2人は簡単に用意をすると、正坊に留守番を頼み家を出た。






「よう、セイ。 調子はどうだ?」
セイの顔を見るなり、松本は笑顔で出迎えた。
「おっちゃん、久し振り。 うん大分良いよ」
「そうか。 まあ上がれ」
松本に促されて家に上がると、そこには懐かしい顔があった。

「副長・・」

土方の顔を見るなり、一瞬体を強張らせたセイだったが、すぐに笑顔を作った。
「元気そうじゃねえか」
セイと会ったのは、最後に隊を出た日だった。
あの時のセイの顔色と、挙動不審な行動が頭に残っていた土方だったが、少し痩せたようだがすっかり女らしくなり精神状態も落ち着いているように見えた事に安心した。

「ご無沙汰しております」
セイは丁寧に頭を下げた。
「おう。 まあ座れ」
土方は、自分の向かいに座るよう勧めた。




「今どうしてるんだ?」
セイが最近ようやく元に戻ってきたという事と、総司が用意した家に住まわせた事は聞いているのだが、敢えてセイに訊ねた。
「あ、はい。 沖田先生が色々として下さって・・ お里さんや正坊と楽しく過ごすことが出来てます」
「それは良かったな」
土方はふんと鼻を鳴らして笑うと、用意されていた茶を口に含んだ。

「あの・・ 副長・・」
セイがおずおずと土方に呼びかけた。
「なんだ?」
「なぜ今日はこちらへ?」
「ああ・・ 別にお前を待ち伏せしていた訳じゃねえから安心しろ。 法眼に用があったんだ」
「そうですか・・」
そういう意味で訊ねたのではないのだが、変に誤解させてしまったのではないかと、セイは心配した。
しかしそんな事を気にする様子もなく、土方は隊の皆の話をしてくれた。
今はそれほど大きな問題もなく、皆元気にやっているという。
しばらくして、土方はそろそろ時間だと言いだした。

「じゃあ俺はもう行くからな。 何かあればいつでも連絡して来い」
「えっ あ、はいっ」
隊にいた時とは違い、優しい言葉にセイは驚いた。
「あ、それと・・」
立ち上がろうと腰を浮かした土方だったが、そのままの体勢でセイの顔を覗き込んだ。

「総司の事を宜しく頼んだぞ」

「え?」
不思議そうに首を傾げたセイに、土方はニヤッと笑うと、そのまま何も言わずその場を去って行った。

セイは訳が分からず、里の顔を見た。
「どういう意味だろう? お世話になってるのは私の方なのに」
里はふふっと笑った。
「おセイちゃんは、沖田せんせ同様野暮天やからなあ」
益々意味が分からないというように眉間にしわを寄せた。

「そろそろ診察してんだが」
面白そうにやり取りを見ていた松本が、声をかけた。

「あ、ごめんなさい。 大丈夫です。 よろしくお願いします」
ここに来た目的をすっかり忘れていたセイは、慌てて松本に向き直った。







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