慟哭 23話




「一体どうしたんです、こんな所で」
総司は何事もなかったかのように、中村に笑顔を向けた。
「そろそろ帰らないと門限に間に合いませんよ」
そう言うと、中村の横を通り過ぎようとした。

「待って下さい、沖田先生」
「・・・・・何です?」
総司はその場に立ち止まり、振り向かないまま訊ねた。

「今のは・・・ 神谷なんですか」
「何を言ってるんです?」
「神谷なんですね?」
総司は振向くと、中村を見た。
まるで敵を見るような冷たい眼に、中村は竦みそうになった。


「何も見なかった事にして下さい」
「・・・・え」
「見たことは、決して公言してはなりませんよ」
「・・・・・・」
何か言い返そうとするが、なぜか言葉が出てこない。
「あと、無暗にあの人に近づかないでくださいね」
にっこり微笑んでそれだけ言うと、総司は再び歩き出した。

「ま、待って下さい!」
中村は、必死の思いで総司を呼び止めた。

「まだ何か」

中村は、意を決して総司に近寄ると、総司の前に立ちはだかった。

「お、俺は誰にも何も言うつもりはありません!」
「・・・・」
「ただ、あの子に会う事まで禁止されるのは納得いきません。 俺、あの子が神谷だろうと神谷じゃなかろうと、会いたくて会いたくてしょうがなかったんです」
必死に訴える中村を、総司は冷めた目で見ていた。
「・・・・それで?」
「それでって・・」
「中村さん。 あなたがあの人に近づくのは勝手です。 しかし、それが原因であの人に何かあれば、私はあなたを許しませんよ」
総司の視線に、中村はぞくっと背筋が寒くなるのを感じた。
「どういう・・ 意味ですか」
何故自分が神谷に近づく事で何か起こるというのだろうか。
「それをあなたに言う義務は、私にはありません。 では」
総司は中村を一瞥すると、今度こそ中村をその場に置いて屯所に向って歩き出した。


1人その場に残された中村は、何が何だか訳が分からず総司の後ろ姿を見送った。
そして、セイが消えた家を振り向くと、悲しげな表情をして、諦めたように自分も屯所へ向かった。












屯所に戻った中村は、自分の行李の前に座った。
そして、中から紙に包まれたものを取り出した。

彼女に会えたら渡そうと思っていた簪。

あの少女は、やはり清三郎だったのだ。

ふらふらと立ち寄った祭りで、総司を見かけた。
遠目からでもあの長身は目立つので、すぐに分かった。
その総司が珍しく女子を連れていた。
何となく興味がわいて、近づいてみた。

少女の顔を見て、中村は息をのんだ。
自分が恋い焦がれていた少女が、総司と仲良く手をつなぎ頬を赤らめて楽しそうに話しているのだ。

中村は奥歯をギリッと噛んだ。
総司は、自分がその少女の事を想っている事を知っているはずなのに。
彼女の為に簪を買った事を知っているはずなのに。

2人は一通り祭りを楽しんだらしく、帰途につこうとしていた。
気がつくと、後を着けていた。

気づかれぬよう慎重に着いて行く。


「神谷さん」


え?


中村は、自分の耳を疑った。

今、総司は少女の事を確かに「神谷さん」と言った。
清三郎に似ているとは思っていたが、本当にセイなのだろうか。
少女を盗人から助けた時、彼は清三郎ではないと言いはしなかったか。
例の病気で完全に女子になってしまったのか。
その為に隊を出る事になったのだろうか。


そんな事が自分の頭の中をぐるぐると過った。


何故、見なかった事にしなければならないのだろう。
そして、何故自分が彼女に近づく事で彼女に何かが起こるのだろう。


何もかも中村には理解できなかった。




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