慟哭 22話
「沖田先生、口にあんがついてますよ」
「本当ですか?」
慌てて懐紙を取り出そうとする総司に、セイはそっと懐紙を渡した。
「ありがとうございます」
照れたようにそれを受取ると、口元を拭う。
2人は見つめあい、そして微笑みあった。
そしてまた手をつなぐと、賑やかな人ごみの中を歩き始めた。
吹き矢を見つけて、総司は面白がって手に取った。
「沖田先生、吹き矢は得意なのですか?」
「いえ、今日初めてやります」
にこにこしながら吹いてみた。
しかしまったく当たらない。
3度続けて吹いてみるが、見事に的を外れていく。
「銃の訓練をいつもサボっていたからですよ」
そう言いながら、セイはくすくすと笑っている。
「じゃあ神谷さんやってみてくださいよう」
ぷうっと頬を膨らませながら、総司がセイに吹きやを渡す。
「えぇっ!? 私なんて絶対無理ですよ」
「いいからいいから!」
渋々総司から吹き矢を受け取ると、見よう見まねで吹いてみた。
「あ」
セイの放った矢は、見事的の真ん中に命中した。
「神谷さん、あなた変なところで才能があるんですねぇ」
関心しながら的をマジマジと見ている。
「変なところとは余計です」
「もう1回吹いてみて下さいよ。 まぐれかもしれませんから」
そう言われると、負けず嫌いのセイは途中ではやめられない。
その後も数回吹いてみたのだた、すべて的に当たった。
「沖田先生・・・・ そろそろ機嫌直してください」
よほど先ほどの吹き矢にショックを受けたのか、悲しそうな顔で下を向いてとぼとぼと歩く総司の顔をセイは覗き込んだ。
「神谷さんにいいところ見せようと思ったのいに・・ 逆にいいところ見せつけられてしまいました・・」
それを聞いて、セイは吹き出しそうになったのを必至で我慢した。
「もう、沖田先生ったら・・ あっ! 先生お煎餅がありますよっ! 食べませんか?」
「食べます!」
「・・・・」
食べ物の名前を聞いただけで、すぐさま機嫌が直りニコニコと煎餅を食べている総司を、セイはあきれた顔で見ていた。
「おいしいですねぇvvv」
本当に嬉しそうに煎餅を頬張る総司を見ているうち、セイも何だか嬉しくなりふふっとほほ笑んだ。
「私にも下さい」
そういうと、総司の手から1つ奪い取り、パクっと口に入れた。
「あーっ 神谷さん、それ私のですよう」
「いいじゃないですか、減るもんじゃないんですから」
「食べたら減りますよっ!!」
「美味しいっ もう1枚ください」
「もうダメですっ!」
そういうと、総司は煎餅を自分の手の中に隠した。
「先生の意地悪っ」
そんなやり取りをしながらも、2人は心からこのひと時を楽しんでいた。
この時間がずっと続いてほしい。
そんな気持ちでいた。
「そろそろ帰りましょうか。 あまり遅くなってもお里さん達が心配しますからね」
「そうですね」
総司の申し出に、セイは内心寂しく思いながらも少し長くい過ぎたかも知れないと素直に従った。
祭りの喧噪を抜け、静かになった夜道を2人は手をつなぎ先ほどの祭りがいかに楽しかったかという事を話していた。
本当に、こんなに楽しいと感じたのはどれくらいぶりだろう。
セイは少し前までの自分との違いに驚いていた。
ここまで立ち直ることが出来たのは、総司のおかげ以外の何ものでもない。
感謝してもしきれない。
でもなぜ総司は自分にここまでしてくれるのだろうか。
セイは、その事が気になって仕方がなかった。
セイの家まで来ると、総司はつないでいた手を離した。
「じゃあまた遊びに来ますね」
「はい。 今日は本当にありがとうございました。 とっても楽しかったです」
「私もですよ。 また甘味処行きましょうね」
「喜んで」
そういうと、にっこり微笑んだ。
「さぁ、風邪を引いてしまうと困りますから家へ入ってください」
きっとセイは自分の姿が見えなくなるまで見送るだろうと思った総司は、先にセイを家の中へ入れようとした。
「でも・・」
困ったように見上げてくるセイの表情に、総司は思わず顔を背けた。
あまりにもその表情が可愛らしく、このまま見ていると抱きしめたくなってしまいそうだったのだ。
「ダメです。 あなたが家の中に入るまで私が帰れませんから。 さぁ早く入って下さい」
「はい・・」
しゅんとした表情で、セイは渋々戸を開けた。
「おやすみなさい、神谷さん」
「おやすみなさい」
淋しそうな笑顔でそういうと、セイは戸を閉めた。
安心した総司は、屯所へ帰ろうと踵を返した。
「!!」
総司は、目の前に立っている人物に驚いた。
そして、心の中で舌打ちをした。
全く気配に気付けなかった。
きっとセイと一緒にいたことで、浮かれていたのだろう。
「沖田先生・・・」
そこには眉間に皺を寄せた中村五郎が立っていた。
23話へ