慟哭 2




「おい、神谷の事聞いたか?」
「あぁ、病で離隊したんだろ?」
「それにしても急すぎるよなー。 俺たちに何も言わないでさー」
「おいっ! お前らっ」
隊士達は、同じ部屋の隅で刀の手入れをしていた総司をちらっと見た。

総司は、そんな隊士達の目も気にせず黙々と打ち粉をしている。

「沖田先生はもちろん知ってるんだよなー?」
「そりゃそうだろう」
「先生も辛いんだろうな・・・」

刀の手入れを終えた総司は、黙ってその場に立ち上がった。

噂をしていた隊士達は、一瞬ビクッとなり口をつぐんだ。

「ちょっと外へ出てきます。 午後の巡察までには戻りますから」
誰に言うでもなく、そう言うと総司は部屋を出て行った。




屯所を出た総司は、行くあてもなくふらっと町へ出た。
本当は用事などなかったのだが、隊士達の話が耳に入って来る為、部屋にこれ以上いたくなかったのだ。
かといって、いつものように土方の部屋に遊びに行こうとも思えなかった。



セイが大阪の商家に嫁いだと聞いた時に感じた胸の痛みは何だったのだろう。
そればかりを考えてしまう。
この結果は、自分が以前から望んでいた事ではないだろうか。
誰よりも幸せになって欲しい。
こんな鬼の棲み家から早く出て、どこか新撰組とは縁のないところへ嫁いで可愛いややを授かって。
それを自分は望んでいたはずだ。
なのに何故自分の胸は痛んでいるのか。

「はぁ〜っ」
知らずため息が出る。
昨夜はなかなか寝付けなかった。
空いた隣が妙に淋しく感じた。

「ずっと一緒にいたんだもの。 いなくなったら誰だって淋しいと思うに決まってる」
そう自分に言い聞かせた。



特に何をするでもなく、町をぶらついて総司は屯所へ戻った。


「沖田さん」
昼餉を食べている総司の隣に、斉藤が座った。
「あ、斉藤さん」
斉藤を見てにっこりと微笑んだ。

「神谷が離隊したと聞いたが」

その話か・・ と、内心総司はうんざりしたが、顔には出さない。

「えぇ、私も昨日聞いたんですけどね」
「昨日神谷を見た時は、とても病にかかっているとは思えなかったがな」
「そうですね。 私も全く気づきませんでした」
昨日最後に見たセイの笑顔がまたもや頭を掠める。

「ま、様子はおかしかったがな」
「えっ?」
「いや、俺の気のせいかも知れん」
「どう、おかしかったんですか?」
総司は、自分でも気づかなかったセイの様子に斉藤が気づいたのが気に入らないとは思ったが、突然隊を抜けた理由のきっかけになるかも知れないと、斉藤に尋ねた。

「心ここにあらずといった感じに見えたが。 俺が話しかけた時には、もう普通に戻っていた。 今考えると、病のことを悩んでいたのだろう」
セイが病で離隊したと思っている斉藤は、そう結論付けた。
「そう・・」ですか・・」
全く気づかなかった。
最も、総司は昨日朝から近藤の使いで外出していた。
夕方帰営しセイと散歩でも・・と思った所にセイが出かけようとしていたので、昨日セイに会ったのはその時が初めてだった。

「ま、淋しくなるだろうが気を落とさん事だな」
そういうと、斉藤は黙々と食事をし始めた。

総司はしばらくその場でじっと考え込んでいたが、それ以上食欲もわかず斉藤に挨拶をすると外に出た。

昨日自分が屯所を空けていた時にセイに何かがあったのではないか。
それしか考えられない。
しかし、いくら考えてもセイが自身から隊を抜ける理由が思いつかない。
自分が女だと言い出したからには、バレた訳ではないのだろう。
もしかすると、本当に何かの病だったのか。

やはりセイの事を考えてしまっていた事に、総司はふっと苦笑した。

今更こんな事を考えても仕方がない。
セイは既に新しい生活を始めようとしているのだ。
総司は大きく深呼吸した。
セイの幸せを願おうと心に誓った。


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