慟哭  19話




「私は殺してしまったんです。 新撰組の隊士を・・・  3人も仲間を殺したんです」
それだけ言うと、セイは声をあげて泣き始めた。
総司は、そんなセイをただ見下ろしていた。


セイが隊士達を刺したという事は、松本から聞いていた。
しかし、それは決してセイが悪いわけではなかった。
事情を聞いた総司も、既に死んでしまっている隊士達に殺意を覚えた。
もしセイが彼らを刺していなければ、間違いなく自分が手を下していただろう。
それだけの事を彼らはやったのだ。

「神谷さん、どこか休める所へ行きましょう」
総司の言葉にも反応せず泣き崩れているセイの手を取り、抱きかかえるように歩き始めた。


すぐ歩いた所に盆屋を見つけた。
総司は悩んだが、とにかくどこかゆっくり出来る所へと思いセイを連れて中に入った。

「少し横になりましょう」
そう言うと、既に敷いてある布団にセイを横にさせた。
既に泣き止んでいるセイだったが、泣きつかれたのかぐったりとしている。



「お茶でも飲みますか?」
総司はなるべく優しくセイに話しかける。
その問いに、セイはゆっくりと首を振った。

総司は自分の持っている手ぬぐいを出し、涙と汗でぬれているセイの顔を拭いた。
「私はここにいますから、ゆっくりおやすみなさい」
優しくセイの頭を撫でた。
そして、そのままセイの頬を手の甲で優しく撫でる。
すると、その総司の手をセイが弱々しく重ねた。


「先生・・」

セイの反応に総司は内心驚いたが、顔には出さずセイの顔を覗きこんだ。

「私は新撰組に入ってから、先生の事を信用していました。 とても尊敬していまし
た。 そして、誰よりも頼りにしていました」
目に涙を浮かべ、総司を見上げながらゆっくりと話し出した。
「神谷さん・・」
セイの言葉に、総司の胸は詰まりそうになった。
「なのに、私は先生の事を裏切ったのです」
「裏切った? 一体何のことです?」
「許されないことをしてしまいました」
「黙って隊を出た事を言っているのなら・・」
「いいえ、そうじゃありません」
総司の言葉をさえぎって、セイは首を横に振った。
「私は、先生の事を疑ったのです」
「え?」
「そんな事あるはずもないのに、あの時先生の事を疑ったのです」
「疑った・・・?」

それを聞いた総司は、ハッとした。
何の話をセイがしようとしているのか気づいた総司は、これ以上聞きたくないと思った。
セイの口からあの時の話をさせてはいけない。
「何の話をしているか分かりませんが、もう休んだらどうです・・か・・」
そこまで言ったところで、セイは総司の手を握る手にギュッと力をこめた。

「私は・・・      3人の隊士達に襲われました」
総司の目をじっと見ながら、セイは静かに言った。

「彼らは、私が女子だという事を知っていたのです。 そして、沖田先生の名前を
使って私を呼び出しました。 バカな私は、のこのこと行ってしまって・・」
そこまで言うと、セイはギュッと唇をかみ締めた。

総司はセイの表情があまりにも痛々しく、見ていられなくなり顔を背けた。

「逃げようとしたんです。 でもやっぱり男の力には適いませんでした。 だって相手は3人だったんですもの。
 散々好きなようにされました」
声が震えてくるのが分かる。

もうやめて欲しい。
これ以上言わないで欲しい。
そんな事、セイの口から聞きたくない。

総司は耳を塞ぎたい衝動に駆られた。


「最後に、彼らが私に言った言葉が、私が女子だと教えたのは沖田先生だとい
う事でした。 その瞬間から私の記憶がありません。 気がついたら目の前に3人が
血だらけで倒れていました」

「神谷さん‥  それ以上言わなくて良いですから‥」
セイから顔を背けながら、ぎゅっと目を瞑って言った。

「私はすぐに局長と副長の元へ行きました‥。 事情を全て話し、皆を騙していた事と
私闘の罪で処罰して欲しいと言ったのに‥どうしても許してくれませんでした‥」
セイは、空いたほうの手で目を覆いしゃくり上げて泣き始めた。

「神谷さん、もう‥もうやめてください」
セイの手を握り返した。

しかしセイは、嗚咽をあげながらも話すことをやめようとはしない。
「私はあれから新撰組で過ごした全ての事を忘れようと努力してきました。 ‥沖田先生の事もです」
「・・・」
「でもあの人たちの言った言葉がずっとどうしても忘れられませんでした。 信じたくない思いと、信じ切れない思いが
ありました。  そして、沖田先生の事を疑い・・・・恨みました」



全て松本から聞かされていた事だった。
何故自分の事をあれほどまでに避けるのか、何故男に対してあれほど怖がるのか。
セイが自分の事を疑い恨んでいることにショックを受けたのは確かだ。
しかしそんな状況になって平静な心理状態でいられる訳がない。



「神谷さん、私は何を聞いても何を知ってもあなたが私を裏切っただなんて思いません。 むしろあなたがそんな事になったのは、こんな男所帯の中にあなたを残した私の責任です」
「違います!」
セイは勢いよく起き上がった。
「沖田先生は悪くないのです! 私のわがままで隊に残ったのです。 それなのに、先生をこうして傷つけて裏切るような事をしてしまって‥」
セイは、両手で顔を覆いながらしゃくり上げて泣きはじめた。
「神谷さん‥」

この小さな体で、どれほどの事を1人で抱えて来たのだろう。
この数ヶ月の間、どれほど辛い思いをして来たのだろう。
考えただけで、胸が締め付けられる。


「ごめんなさい」と何度も繰り返しながら泣いているセイを、総司はそっと抱きしめた。
一瞬自分の中でビクっと強張ったセイだったが、総司の胸に体を預けてきた。

「神谷さん、あなたは何も悪くない」
セイの背中をゆっくりとさすりながら優しく話しかけた。
「もう1人で抱えなくて良いんですよ。 お里さんや法眼、そして近藤先生や土方さんも、皆あなたの味方です。 ・・・もちろん私もです。 忘れろとは言いません。 でも、あなたの笑顔を皆が見たいと思っているのですよ」
「おき・・・た・・せんせい・・」
「もうあなたを苦しめる人間はいません。 万が一あなたに危険が迫ったとしても、必ず私が守ってみせます」

しばらく総司の腕の中で泣き続けていたセイだったが、ようやく体を離した。
そして、総司を見上げる。
そんなセイを、総司も優しく見返した。
「信じてくれますか?」
総司の顔をじっと見上げていたセイは、涙でボロボロになった顔のまま、にっこりと微笑んだ。
「はい」

その返事を聞き、総司満足そうに笑った。
「やっとあなたの笑顔が見れました」



再び総司に抱きしめられたセイは、ゆっくりと目を閉じた。


こんなに気持ちが安らいだのは久しぶりだ。
ずっと気を張っている状態が続いていた。

何もかも打ち明けて、楽になりたいと思った。
男たちに簡単に騙され、それを総司のせいだと思い込んできた自分を叱って欲しかった。
なのに、やはりこの人は叱るどころかこんな自分をこんなにも想ってくれている。

セイはこの数ヶ月間胸に突き刺さったままの痛みが和らいだ気がしていた。



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