慟哭  17話




「何でお前はこう毎日毎日俺の部屋へ来るんだよ」
眉間にしわを寄せ、総司を睨んだ。

「だって、土方さんの部屋へ来るといつも美味しそうなお貸しが置いてあるんですもん」
そういいながら、部屋の隅に置かれていた菓子を手に取る。

「わぁっ これはどこのお菓子ですか? すっごく美味しいですよ」
総司は、食べかけの菓子を見ながら驚いた表情を土方へ向けた。
「知らん。 この前妓にもらったものだ」
興味なさそうな表情を総司に向けたかと思うと、土方はすぐに顔をそらし発句を始めた。

「これ、いらないならもらっても良いですか?」
「・・・・ああ。 別に構わん」
土方の返事を聞くと、食べかけの菓子を口に含み箱を閉じた。
「ありがとうございます!」
その言葉に、土方は総司に振り返った。

「そう言えば、家は見つかったのか?」
「えっ?」
「あいつを住ませるんだろ」
「あぁ、いえ。 お願いはしているのですが、まだ見つかってはいないです」
「あいつは何て言ってるんだ」
「正式に返事はもらってません」
総司は頭を掻きながら、気まずそうに答えた。
「そうか・・ ま、お前らの問題だからな」
土方の言葉に、総司は目を伏せた。


最近のセイは、少しずつだが変わってきた。
まだ以前のようにとまでは行かないが、自分に対して心を開きかけている事を感じていた。


「副長、失礼して宜しいでしょうか」
廊下から、斉藤の声がした。

「あぁ、入れ」
斉藤に声をかけると、土方は総司に出て行くよう目配せをした。
軽く会釈すると、部屋を出ようと戸を開ける。

斉藤と目が合い、総司は曖昧に微笑んだ。
斉藤はというと、特に表情を変える事なく土方の部屋へ入り戸を閉めた。

何故か最近斉藤を見ると胸が騒ぐ気がする。
女子姿のセイが、神谷清三郎だと知られないかと不安だからだろうか。
この気持ちは、中村に対してもそうだった。
何故だろう。
いくら考えても思い浮かばない。
総司は、ふぅっとため息をつくと、屯所を出た。






「じゃあ正坊行ってくるね」
「行ってらっしゃい。 セイ姉ちゃん、気をつけて行きや」
「ありがとう」
セイは正坊に微笑むと、戸を開けようと手をかけた。

その瞬間、戸がばっと開き総司が目の前に立っていた。

「っ!」
驚いたセイは、数歩後ろに後ずさった。

「あ、神谷さん。 ごめんなさい、驚かせてしまいましたね」
総司は申し訳なさそうに言った。

「ひょっとして今からお出かけでした?」
セイが手に桶を持っているのに目を落とした。
「お墓参りですか?」
その問いに、総司はゆっくりと頷いた。

「そうですか・・」
寂しそうに手に持っている菓子に目を落とした総司だったが、何かを思いついたようにセイの顔を見た。
「お墓参り私もお供しても良いですか?」
「えっ?」
「1人で歩いていて何かあっては困りますし、私もあなたのお父上と兄上にご挨拶もしたいし」

セイは少し考える素振りをしたが、静かにうなづいた。
「良かった。 私がその荷物持ちますよ。 あ、正坊これ良かったら食べてください」
正坊に菓子を渡すと、総司はセイから桶を受け取り外へ出た。

セイも、ゆっくりとだが総司の後をついてくる。
会話らしい会話などなかったが、総司は満足だった。
以前とはセイの容姿は変わっていても、やはりセイが持つ空気が総司は好きだと思った。
彼女が今どんな気持ちで自分と歩いているのか考えても全く分からない。
しかし、少なくとも嫌がられてはいないだろうと思える。

もうすぐ墓に着くだろうという時、総司は殺気を感じた。
歩きを止めず、周りの気配をうかがう。


4人・・・いや5人?


総司はそっとセイの手を取った。
突然の行動に、セイは驚くだろうと思われたが、セイの反応は意外だった。

ぎゅっと総司の手を握り返してきた。

逆に驚いた総司が、セイを振り返る。

するとセイは、強い視線を総司に送り、頷いた。


分かっているのだ、この人は。
いくら女子姿になったとしても、不安定な状態にあったとしても、この数年で培ってきた勘は鈍っていなかったのだ。

総司は頷き返すと、走り出そうとした。


しかし遅かったようだ。

目の前に3人の浪士が現れた。

総司が「ちっ」と舌打ちをして後ろを振り返ると、2人の浪士が行く手を塞いでいる。


逃げ道がない事が分かった総司は、つないでいたセイの手を離すと、刀に手をやった。
「神谷さん、下がっていなさい」
そう言うと、セイを自分の後ろに隠すように下がらせた。


普段の総司なら、1人でも戦える人数だろう。
しかし、セイを守りながらとなると、そうはいかない。

総司はつばを飲み込むと、ゆっくりと刀を抜いた。





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