慟哭  16話




セイは、何も言葉を発さず下を向いて立ち尽くしている。
「すみません、突然来てしまって・・・」
申し訳なさそうにそういうと、総司は部屋から出てきた。
近づいてくる気配を感じ、セイは1歩後ずさりする。
2人の様子を、里はハラハラしながらただ見ていた。

「あなたやお里さんに伝えたい事があって今日は来たのです。 少しお話出来ませんか?」
総司は、セイの様子に悲しげに微笑んだ。
ちゃんと理解はしているつもりでも、どうも慣れそうにない。

セイは、しばらく下を向いて考え込んでいる様子だったが、そっと里を見た。
里も、セイの視線に気づきセイに顔を向ける。

「うちも一緒におりますさかい、お聞きになりはったらどうやろか?」
里の言葉に、セイは唇をきゅっと結んでゆっくり頷いた。








「えー、ほんまどすか? 沖田せんせはほんまに面白いなぁ」
「本当なんですよ〜。 それにこの前なんて土方さんたら〜・・」

先ほどから繰り返されている総司と里の世間話を、セイはぼーっとしながら聞いていた。

話があると言われたから、こうしてここにいるのに、話らしい話は何も出てこない。
一体いつになったら本題に入るのだろう?

しかし、セイはまた別の感情が出てきたことに気づいていた。

総司に対して、以前ほど恐怖を感じなくなってきた。
こうして話をしていると、何だか安堵すら感じている自分がいる。

「でね、その時土方さんたらあまりにも驚きすぎて飛び上がっちゃって! しかも、その拍子に持ってた茶碗ひっくり返しちゃったんですよ! その時の土方さんの顔ったら」
そこまで言うと、総司は1人であははと笑い出した。
その様子を見て、里もつられて笑っている。

セイは、何となく2人を見比べていたのだが、次第に何となく口元に笑みが浮かんだ。

何か懐かしいな・・

セイは、2人の会話を聞きながら目を閉じた。

新撰組にいた頃の事を、除隊してから初めて思い返してみた。
総司といつも一緒にいた事。
1番隊で命がけで戦っていた事。

こんな気持ちになるのはどれほどぶりだろう。


尚も、総司の話は続いている。
「でね、土方さんたらね・・」
総司は楽しそうに土方がヘマをやった話や、斉藤が驚いて定形外の顔になった事などを面白おかしく話している。

セイも、目を閉じながらその様子を思い浮かべていた。

兄上の定形外の顔・・・


「ふふ・・」



思わずもれた笑みに、セイは自分でびっくりして口元を手で押さえた。
それまでしゃべり続けていた総司と里も、セイを振り返る。

「あ・・」
セイは、何故だか恥ずかしくなり下を向いてしまった。
総司は、しばらく驚いてセイを見ていたが、里と目を合わせて微笑みあった。

徐々にだが、自分に心を開き始めているのが分かる。
焦ってはいけない。
少しずつ。
今のセイに必要なのは、時間だ。


「そうや、さっき沖田せんせから頂いたお団子出すの忘れてたわ。 お茶も淹れなおして来ます」
そういうと、里は立ち上がり台所へ向かった。

途端に不安そうな顔になったセイを見て、総司は大きく息を吐いた。

「神谷さん、前に言っていた件なのですが・・」
突然話し出した総司に、セイは思わずビクっとなり視線を彷徨わせた。

「家を・・ 今日探してもらうように頼んできました。 こんな場所じゃあ、あなた達に万が一何かあった時にすぐに駆けつけられません。 決まり次第、そちらへうつってはもらえませんか?」
総司は、セイの顔を覗き込みながら慎重に言葉を選んで話した。

セイは、下を向いて何かを考えているようだ。

「家が見つかったら、また報告に来ます。 そしたら、一緒に家を見に行きませんか? お里さんやまー坊も一緒に」


何を考えているのか、総司には分からなかった。
しかし、セイの表情からは、以前のような頑なな拒否を感じない。

総司は、それだけで満足だった。
少しずつ自分がセイに受け入れ始めている。
その事実だけで今は十分だ。

「お茶入りましたよ」
そこへ里が入ってきた。


「美味しい〜っ」
買って来た本人が、誰よりも頬張っているのを見て、里は呆れ気味に笑った。
「せんせ、まー坊の分も残しといて下さいね」

「あ、すみません・・ 何か久しぶりに神谷さんと一緒に団子が食べれて美味しくて・・」
総司はしまったという顔をして、両手に持っていた団子をぱっと置いた。

それを見て、またもやセイの顔が緩んだ。


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