慟哭 15話
「では宜しくお願いしますね」
総司はそう言うと、店を出た。
屯所の近くに良い家を探してもらうよう、頼んできた。
セイだけでなく、里やマー坊も一緒に住めるよう広めの家をお願いした。
生け垣がなるべく高く、できるだけ安全な家を。
総司は、その足で里の家へ向かった。
途中、何か甘いものを3人へ土産に持っていこうと、セイと良く行った店に寄った。
ほくほくの団子を手に持ち、足取りも軽く歩き出した総司の前方に見知った顔があった。
中村が、店先で何やら難しい顔をして立っていた。
「中村さん、どうかしたんですか? そんな真剣な顔して」
総司は何気なく声をかけた。
「あっ 沖田先生っ」
余程集中していたのだろう。
突然かけられた声に、中村は心底驚いたように飛び上がった。
「何をそんなに真剣に見ているのですか?」
中村が見ていた店に目をやると、そこには簪や櫛が並べてあった。
「へぇ〜、奇麗ですねぇ。 どなたかに贈り物ですか?」
総司の問いかけに、中村は顔を赤らめて下を向いた。
「えぇ・・ まぁ」
「わぁっ これなんて可愛らしいですねぇ」
なかなか答えようとしない中村をよそに、総司は目に付いた桜の柄の櫛を手に取った。
きっとセイに似合うだろうなぁと総司は思った。
「あっ それは・・・」
中村が慌てたように声をあげた。
「中村さんもこれが良いと思ったのですか?」
総司はニコニコとその櫛を中村に渡した。
「はい・・・ その・・・」
「中村さんがそんなに真剣に選ぶほどの方なんだから、さぞかしお奇麗な方なんでしょうね」
総司の発言に、更に中村の顔が赤くなる。
「実は・・ 俺・・ この前あった人がどうしても忘れられなくて・・・」
「え?」
「ほら、その、この間町で助けた人いたじゃないですか!」
その言葉に、総司の胸がずしりと重くなった。
「どこの誰かも分からないんですけど、いつか会えた時に贈りたくて」
「そうですか」
心の中がモヤモヤしてくる。
「俺、この櫛買おうかな。 沖田先生も良いと思ったんだったら、きっと彼女も喜んでくれますよね」
「えぇ、きっと喜んでくれると思いますよ」
総司は作り笑いで答えた。
それを聞くと、中村は嬉しそうにその櫛を持ち見せの中へと入っていった。
総司は中村の後ろ姿を見送ると、店を後にした。
何なんだろう、この気持ちは。
中村がセイの為に櫛を選んだと聞いた途端に感じたこのモヤモヤした感じ。
自分以外の男が、セイの事を口にするだけでこんなにも嫌な気持ちになるものなのだろうか。
中村が贈った櫛を、嬉しそうに受け取るセイの姿が頭をよぎった。
何故か、嫌だと思った。
その役目は、自分でなければならない。
その相手が誰であろうと、譲れない。
何故そのように思うのか、総司には分からなかった。
しかし、女子のセイは自分だけのものだと、誰にも決して渡せないと総司は思った。
「こんにちは」
「沖田せんせっ」
突然の来訪者を、里は笑顔で出迎えた。
「これ、良かったら皆さんで食べて下さい」
そういうと、総司は先ほど買った団子を里に渡した。
そして、家の奥をちらっと覗き込む。
「あ、すみません・・ おセイちゃんなら今出かけてはるんです」
総司の意図を察した里は、申し訳なさそうに答えた。
「そうですか・・・」
残念そうに言う総司に、里はふふっと笑った。
「日課のお墓参りに出かけてはるだけどす。 すぐに戻りはると思いますえ。 良かったらお茶でも飲みながらお待ちになったらどうですか」
そう言うと、里は総司を家に上がらせた。
「沖田はん、久しぶりやな」
中へ入ると、マー坊が総司を見上げていた。
「やぁ、マー坊。 お元気でしたか」
正一の前に座ると、総司はにっこり微笑んだ。
しかし、正一の顔は固いままだった。
「どうかしたんですか?」
不思議そうに正一の顔を覗き込む。
「神谷はん・・・ ずっとあのままなんやろか・・」
正一は、下を向きながらボソッとつぶやいた。
「え・・?」
「うち、神谷はんの事好きやねん。 里姉ちゃんの事も大好きやけど、神谷はんがほんまはお姉ちゃんやって知ってからも、やっぱり大好きやねん。 だから、あんな神谷はん見てられへんのや」
「マー坊・・」
総司は、悲しそうに下を向いている正一を何も言えず見つめていた。
「里姉ちゃんが言いよった。 沖田はんなら絶対神谷はんを治せるて。 ほんまに治せるん?」
「分かりません・・ でも、私も神谷さんには早く元に戻って欲しいと思ってますよ」
総司は、正一の頭を撫でながら言った。
「神谷さんは幸せ者ですねぇ。 お里さんやマー坊にこれだけ想われていて」
「沖田はんもやろ?」
その言葉に、総司は苦笑いした。
「えぇ、その通りです」
その時、玄関で物音がした。
「おセイちゃんお帰り」
「ただ今、戻りました」
セイの声が聞こえた。
「お里さん・・ 誰かいるの?」
瞬時に家の中に何かの気配を感じ取ったセイの声が強張るのが分かる。
「あぁ・・・ えぇ、今ちょっと・・」
答えずらそうな里の声が聞こえる。
総司は、その様子に溜まりかね部屋から顔を出した。
「神谷さん、お邪魔してます」
申し訳なさそうに顔を覗かせた総司を見て、セイの表情が一気に変わった。
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