慟哭  13話




「妾宅を持ちたいだと?」
眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに土方は総司を振り返った。

「正確には妾宅ではなく、私は家を借りるだけです。 私がそこに住むわけではなく、そこにある人を住まわせたいと思っています」

「誰のために・・・・と言うのは聞くだけ手間だな」
ふんっと鼻を鳴らし、持っていた筆を机に音を立てて置いた。

「良いですよね?」
「・・・会ったのか」
総司の問いには答えず、土方は逆に総司に質問をした。

「会いましたよ」
「ではあいつに何があったのかも聞いたのか」
「・・・・聞きました」
答えて悲しげな表情をして下を向いた。

「私があの人を隊に留めたばかりにこんな事になったのです。  もっと早く隊から出しておけばあんな事には・・」
「総司」
棘を含んだ声色に、総司は顔を上げた。

「誰のせいでもないだろう。 新撰組に入ったのも、ここに残ると決めたのもあいつ自身だ」
「でもっ」
「誰かにあいつを隊に留めたお前にも責任はある。 しかし、それと今回の件は別問題だ」
総司は再び視線を下に向けた。
「それでも、あんな風になってしまった神谷さんをどうしても放っておけないんです。 いつでも駆けつけられる処へいてもらわないと私が安心できないんです」
唇を噛みながら苦しげにそういう総司に、土方は鼻で笑った。
「全く・・ お前のそのややこしい性格はどうにかなんねぇのか」
「え?」
土方の言っている意味が分からず不思議そうに土方を見た。
「何故あいつの為にそこまでお前がする必要がある? 隊に留めた負い目からか?」
「はい・・ それももちろんあります。 でもあの人の笑顔がまた見たいんです。 あの人の笑顔はお日様のようですから」
以前は良く自分に向けてくれていたセイの笑顔を思い出し、総司は口元に笑みを浮かべた。

「お前は相当な野暮天だな」
「えっ? 突然何ですか」
更に意味が分からず、総司は首をかしげた。
そんな総司をみて、土方はくっくと笑った。

「まぁいい。 それで、あいつは何と言っているんだ」
「この話はしました。 でもまだ神谷さんには返事はもらってません。 急ぐ必要もないと思ってます」
「・・・そうか。 止める権利はねえからな。 お前の好きにしろ」
土方の言葉に、総司の顔も綻ぶ。
「ありがとうございます!」
「1つ忠告しておく。 あいつが神谷だという事だけは隊の人間に知られるなよ」
土方の鋭い声色に、総司はハッとなった。
「・・・承知」

総司は立ち上がると、部屋を出た。



土方には言わなかったが、既に女姿のセイの存在を知っている者がいる。
もし屯所の近くをセイが歩いているのを見かけたら、中村辺りならセイの正体を突き止めようとするだろう。


知られる訳にはいかない。
それよりも、セイの存在を他の誰にも知られたくない。
心の中をモヤモヤとしたものが広がった。

総司は、拳を握り締めて歩き出した。







里が部屋に入ると、セイは起き上がり何かを考えているように、1点を見つめていた。
「おセイちゃん、気分はどう?」
「お里さん」
里の呼ぶ声に、セイは弾かれた様に顔をあげた。

「どないしたん? なんや難しい顔してはったで」
「ううん、何でもないよ」
セイは、にっこりと微笑んで里を見た。
里も優しく微笑みながら、セイの布団の横に座った。

「そう?  ・・・・おセイちゃん、さっき沖田せんせと何話しはったん?」
セイの顔が一気に曇る。

「沖田せんせは、おセイちゃんの事ほんまに大切に思てくれてんねんな」
「え?」
「今日かて、松本せんせに聞いたけど、倒れたおセイちゃん抱いて血相か変えて走ってきたて言うてたで」
里は、セイに茶を淹れた湯呑みを渡しながら静かに話した。
「おセイちゃん、今でも沖田せんせの事想てはるんやろ?」
セイは、何も答えず湯飲みに入った茶をじっと見ている。

「沖田せんせ帰り際に言うてはったわ。 おセイちゃんの力になりたいって。 信じてもえんと違うん?」

何も答えず、考え込んでいるセイの答えを、里は辛抱強く待った。
しばらくしてセイはふぅっと息を吐いた。

「私はずっと沖田先生を求めてた。 心では・・  でも、実際に沖田先生が目の前に来ると・・」
目に涙を浮かべながら、弱弱しく話し始めたセイを、里は急かす事なく聞いている。
「沖田先生だけじゃない。 男の人が怖くて仕方がないの。 自分ではどうする事も出来ない」
セイの瞳から、涙がこぼれた。
「私を見るたびに、沖田先生が悲しそうな顔をするんだよ。 そんな顔させたくないのに。 だったらもう会わない方が良いと思う」
「それは違うんちゃう?」
「えっ?」
「おセイちゃんの事を見て悲しい気持ちになったとしても、それ以上におセイちゃんに傍におって欲しいんと違うかな。 
それに、元のおセイちゃんに戻す事が出来るのも、自分だけやて自信があるんやと思うよ」
そういうと、里は意地悪く笑った。
里につられて、セイの表情も少し和らぐ。
「急がんでもよろし。 ゆっくり前に進んだらええんどす。 おセイちゃんの為やったら、うちもいくらでも力になりますから」
「ありがとう」
そういうと、セイはにっこりと微笑んで湯呑みに口をつけた。
「相変わらずお里さんの淹れてくれるお茶は美味しいね」
「ほんま? じゃあうちも頂きまひょ」
そう言うと、里も湯呑みを手に取った。



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