甘いひととき


バレンタインが近付くたび、セイは溜め息をついた。
「今年はなんにしよう・・・」

結婚一年目の沖田夫妻。
とは言っても恋愛期間を入れれば付き合いは長い。
長い分だけ恋愛イベントもそれなりに行ってきた。
そして一番頭を悩ましてきたのがバレンタインデー。
何故なら夫である総司は大の甘党。 出会った最初の年は『義理チョコ』を渡した。
次の年は初めて手造りした『本命チョコ』を渡した。
三年目は二人でチョコケーキを食べに行った。
四年目はたまには和風で『チョコ大福』など奇抜な物を用意した。
そうして五年目の今年、ネタはそろそろ尽きてきた。
それでも夫は期待しているのだろうな、とセイはまた溜め息をつく。
ネタが尽きるのには理由がある。
大の甘党の総司は、それ以上に甘い物を大量に食べる。
去年までは恋人同士でのイベントだったが、 今年からは夫婦としての初めてのバレンタインデー。
そんなに予算が出せないバレンタインデーなのだった。
だからと言ってチョコ一枚では味気ないし、 ケーキを買うにも一個では絶対足りないだろうし、 そんなわけでセイは二月に入ってからずっとこの事を悩み続けていた。
ある日、セイは夕飯のメニューを考えていた。
何気なく見ていた3時過ぎのテレビからそのレシピは流れた。
「これならいいかもしれない」 セイはその足で材料を買出しに出掛けた。
バレンタイン当日、総司はご機嫌な表情で帰宅した。
今日はセイ公認で甘い物が食べられる日。
いつもなら「食べ過ぎです!」と健康を理由に控えさせられているだけに 総司はバレンタインデーが待ち遠しかった。
夕飯もあっという間に食べ終わり、食後のお茶をすすりながらも セイに甘い視線を送っていた。
セイはそれを見て思った。
甘い物を待ってる時の夫は、犬に似ているかもしれない。
これ以上『待て』は可哀想かな?と思いながら準備に掛かった。
そして『待て』状態の総司の前に次々と準備されていく。
目の前に用意されているのはイチゴやバナナや沢山のフルーツと マシュマロやクッキーや小さめのパン。

「はい、お待たせしました」
「今年はフォンデュなんですねv」
「だって沢山食べたいでしょう?」
「さすがセイv分かってますね〜」
「付き合い長いですもん」
「じゃあ早速頂きましょうか」
「そうですね」 頂きます、と二人両手を合わせる。
セイはどれから行こうかな〜と悩んでいると、ふと総司を視線が合った。
総司はニコニコとセイの顔を見ていた。
「食べないんですか?」
いつもなら誰よりも早く甘い物を頂く総司が何故か動かない。
「食べますよ?待ってるんです」
「何を待ってるんです?」
総司はニッコリ微笑んでこう言った。
「あ〜んv」 口を開けて妻に向かって盛大に甘える夫。
「仕方ないですねぇ」
バナナをチョコをたっぷり絡める。
少し冷まして総司の口に運ぶ。
ゆっくり味わいながら総司は満面の笑みを浮かべた。
「美味しいですv」
「お粗末様です」
「じゃあ次はセイの番ですよ」
「え!?いいですよ!」
「ダメです。はい、あ〜んして下さいv」
そうして沖田夫妻の甘い一日が終わる。 訂正 より激甘な夜が始まる。