秋空に思う


「秋深き隣は何をする人ぞ」
珍しく総司が風流な言葉を口にした。
「松尾芭蕉ですか・・・。
沖田先生よく知ってましたね」
「失礼な」 ぷうっと口を尖らせて拗ねる先生って結構かわいい。
そんな乙女な心を持つ少年・神谷清三郎。 本名・富永セイ。
歴とした女子である。
「な〜んて。本当は土方さんにこの前教えてもらったんです」
「やっぱり。先生が句を嗜むなんて有りえないですもん」
「失礼な。私だって俳句くらい嗜みますよ?」
「それは失礼しました。では他にお好きな句は?」
「え〜っと『水の北 山の南や 春の月』」
「それも副長のですよね」
「『しれば迷い しらねば迷う 法の道』・・・」
「はいはい、それも副長の発句ですね」
「だって好きなんですもん・・・」
「はいはい、じゃあ他は?」
「じゃあ!『しれば迷ひ しなければ迷はぬ 恋の道』は?」
「え・・・?」
「知らないでしょう?」 「はい・・・」
ニッコリと微笑む総司とは対照的にセイの表情は固まった。
知らないというより呆然とした。
余りにも真っ直ぐな句で
「ふふっ、豊玉宗匠の作ですよ」 悲しい位真実だ。
「副長も・・・そんな恋した事、あるんですね」
「神谷さん?」
「あ、いや!副長にしては珍しいなって」
ははっと笑って誤魔化した。
「意外でしょ?あの土方さんにしては艶っぽいですよね?」
その句があまりにも自分の現状を映すようで、涙が零れそうになった。
「でもいい句ですね。私は好きです」
「でしょう?!んもう歳三さんてばかわいいですよねv」
あれ?なんか会話の流れがおかしいような気がするのは私だけ?
「・・・あの句の意味、ちゃんと解ってますか?」
「いいですよね。あのモテモテ土方さんにそこまで思われてる人」
「・・・は?」
「私も思われたいな〜v」
「・・・ソレハダレニデスカ?」
「あれ?もしかして怒ってます?」
怒ってると気付くようにはなったな野暮天。
「私なんか変な事いいました?!」
「別に・・・」
「ですよねぇ!」
「ええ・・・」
もういっそ気付かない方が私の為なんですけど。
「・・・やっぱり怒ってますよね?」
しつこい・・・。
それとも何か?
そんなに私が怒るとそんなに怖いんですか?!
口まで出そうな所を必死で押さえて平常心を装う。
「いえ、土方副長がよっぽどお好きなんだなと思っただけです」
「ええ!あ、でも一番は近藤先生ですよv」
ちっ!やぶへびだ。
もうこれ以上話しても腹が立つだけだ。
ほんっとこの人のどこ好きになったんだっけ(怒)
「神谷さんはこの句、理解できます?」
「え?」
「さっき『好き』って言ってたじゃないですか」
「あ・ああ、そうですね。共感できます」
「ふ〜ん」
「先生は?」
「え?」
「共感・・・できませんか?」
「私は、恋をしませんから。迷いたくないですしね」
「武士、だからですか?」
「武士だからですよ」
きっぱりと前を向いて言う先生の顔は怖いくらい武士の顔だった。
頭では理解していても、悲しい。
それでも隣にずっといたい。
矛盾だらけで恋に迷う私は、どうしたらいいのだろう。
先生に「失礼します」と言うのが精一杯。
きっと今一緒にいたらまた泣いてしまう。
一刻も早く立ち去りたかった。 知ってしまった恋を迷わないなんて方法はないのだろう。
それでも、と願う私はわがままですか?
「・・・好きな人いるんですか?なんて、怖くて聞けないですよ」
セイの後ろ姿を見つめながらボソッと総司は呟いた。
日を追う毎に彼女は大人になっていく。
武士になりたいと願う彼女を裏切るように、 彼女はどんどん女子になっていく。
出会った頃はまだまだ童にしか見えなかった彼女は いつの間にか一人の女子になっていた。
彼女を女子と見ないようにと努力しているのに それを意識すればするほど彼女の女の部分を見てしまう自分に嫌気がする。
彼女から零れる『好き』の言葉が愛しくて、憎らしい。
ああ、本当に恋なんて知らなければ良かったのに。
こんなにも迷い惑うなんて。
「ちゃんと伝わったかな?」
「無理だろ。あいつもたいがい野暮天だからな」
「見てるこっちには嫌ってほど判り易いのになぁ」
野暮天馬鹿ップルの様子を陰から見守る三人組プラス一人の姿。
今回の作戦も失敗かと落胆していた。
そもそもこの句は総司を見て土方が発句したのだ。
それをこっそり持ち出した三人組が総司を焚きつけたようとした。
否、自覚を持ってもらおうと作戦を練ったのだ。
だが案の定発句帳を持ち出したのが土方にばれてしまい ならば土方副長も巻き込むまで!とヤケクソ半分で話した所 「面白そうじゃねえか」と快諾したのだ。
「土方さん・・・あいつらどうなんだろう?」
「いいじゃねえか。ほっとけ」 快諾したはいいがまさか神谷との恋慕の駆け引きを手伝わされるとか思ってなかった。
衆道嫌いの土方はどうしたら弟分が元に戻るか思案に耽るのであった。