隣に・・・



どうして気づいてしまったのだろう・・・

恋など知らなければこんなつまらない事で悩んだりしなかったのに・・・・



「すー・・ すー・・」
先ほどから規則正しく聞こえる寝息。

そんな寝息にまでドキドキしてしまう自分に嫌気が差してしまう。
今までこんな事は1度もなかったのに。

「うぅ〜・・ん」
後ろでセイが寝返りを打つ様子が分かる。

もう総司はここ1週間ろくに寝ていなかった。
セイが隣に寝ているというだけで、総司のアドレナリンは流出しっぱなしだった。

そしてたまにセイが発する寝言。

「おき・・たせんせ・・」


もーーーーーっ!! いい加減にしてください! 神谷さん!
私の事を誘ってるんですか! えぇ、そうなですね!?
もう、本当に知りませんからねっ! 
総司の理性はもはや限界だった。

ばっとセイに振り向く。
すると意外な程近くにセイの顔があった。


「!!!!」
総司は真っ赤になって身を引いた。

ちちちちちち近すぎますからっ!


月明かりにうつるセイの寝顔はとても綺麗だった。
思わず総司はその寝顔に見とれてしまう。

総司の心臓はドキドキしっぱなしだった。

「か・・可愛い・・」
気がつくとそう呟いていた。


まずい・・
こんな近くでセイの寝顔を見ていると、何かよからぬ事をしてしまいそうだ。
総司は今宵も眠る事を諦め、外の空気を吸おうと起き上がろうとした。

その時。

「ふふっ 斉藤せんせぇ」



なぁにぃ〜!!?


初めて聞いた寝言だった。
これまでは、セイの寝言にはいつも総司の名前しか出てこなかった。

総司はまだ「うふふっ」と笑って夢の中にいるセイを、わなわなと震えながら見つめていた。

(もしかしてもしかしてもしかして、今神谷さんの夢の中にいるのは斉藤さんなんでしょうかっ!)

総司の心の中を何かもやもやとしたものが占めていく。

今すぐセイを起したい衝動に駆られた。
しかし、そんな事が出来るはずもなく・・


総司は涙を流しながら布団を頭までかぶった。






「おはようございます! 沖田先生!」
目の前には、爽やかな笑顔のセイがいた。

いつの間にか眠ってしまっていたようだった。

「お、おはようございます。 神谷さん・・」
総司の目覚めは最低だった。

昨夜の事が頭から離れない。
たかだか夢を見ているだけなのに、自分は一体何を考えているのか。

「早く顔を洗って来てください! 朝餉を食べましょう」
元気良く総司の布団をはがし、総司を立たせようとする。

朝1番に自分のところに来てくれるセイに、総司の顔もほころぶ。

しかし。

「斉藤先生なんて、先ほど井戸でお会いしましたけど、もうすっかり身支度を終えてらっしゃいましたよ」



・・・何ですって?
私よりも先に斉藤さんと朝の挨拶をしたですって・・・?

「・・・・そうですか。」
一揆に総司の機嫌は悪くなった。

「どうしたんですか? 沖田先生?」
可愛く首を傾げて訪ねるセイに、総司はプイっと顔を背けた。

「そんなに斉藤さんが良いのなら、斉藤さんと朝餉を食べたら良いじゃないですか」


「・・・はぁ??」
セイは総司が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。

「あなた、昨日寝言で斉藤さんの名前呼んでましたよ。 夢にまで見るほど斉藤さんの事が好きなんでしょう?」
「一体何の話ですか?」
セイは訳が分からないという顔で総司を覗き込む。

「もう良いですっ!」
そう言って、総司は立ち上がり、1人で井戸へ向かって歩いて行ってしまった。

「????」
セイはどうして総司の機嫌が悪くなったのか、さっぱり分からなかった。

「ま、いっか」
これ以上考えても良く分からないので、セイも立ち上がり、食事を取りに食堂へ向かった。



セイが食堂に来てみると、山口と相田が並んで食事を取っていた。

「山口さん、相田さんおはようございます! お隣良いですか?」
「神谷おはよー。」
「もちろん!」
2人は、可愛く訪ねるセイに顔を綻ばせた。

今日の巡察が・・・とか昨日の稽古は・・と3人は仲良く会話をしながら食事を楽しんでいた。

・・・が、山口と相田は急に寒気を感じた。
悪寒というか殺気のようなものを背後から感じる。

恐る恐る振り向いてみると、そこには1番隊組長の沖田総司がものすごい顔相で睨んでいた。
口元には笑みを浮かべて。

2人は顔を見合わせた。

『殺される!!』

2人の様子に気がついたセイは、あどけない表情で、
「どうしたんですか?」
と訪ねる。

「あ・・か、神谷っ!」
「悪いっ! 俺らこの後やる事あったんだっ!」
そういうと、2人は物凄い速さでご飯を飲み下し、その場を離れていった。

「えぇ〜??」
1人にされたセイは、淋しそうに2人が去って行ったほうを見つめた。
仕方ない。 1人で食べるかぁ。 

そう思ったセイの隣に、黙って座る人物が居た。
総司だった。

「あ、沖田先生」
セイは笑顔で総司を見た。

「随分楽しそうでしたねぇ」
「はいっ! でも2人ともいきなり用があるってすぐにどこかへ行っちゃいました」
残念そうにセイは言った。


どれほど野暮天なんでしょうねぇ、この子は・・・

もうとっくにセイの野暮天ぶりには気がついていたが、これほどまでに総司が露骨に態度に出しているにも関わらず、それが総司の悋気だとは微塵も気づかない。

「神谷さん、今日の巡察の後何か予定ありますか?」
「はいっ! 今日は藤堂先生のお買い物にお付き合いする約束なんです」
ご家族にお土産を買うんですってーと嬉しそうに話すセイを見て、総司の米神には怒りマークが浮かんだ。

「・・・断って下さい。」
「えっ!?」
セイはびっくりして総司を振り返った。

「どうしてですか? もしかして重要な任務でも入ったのですか?」
総司が約束を断れだなんて、何か仕事が入ったに違いないとセイは考えた。

「はい」
「そ、それはどういう?」
もしかしたら特命かもしれない。
セイは声のトーンを落として訪ねた。

「私と葛きりを食べに行くんです。」


「・・・・は?」
セイは自分の耳を疑った。

「だから、私と葛きりを食べに行くんですっ!」

「あ・・あのぉ・・・」
突っ込みどころ満載の総司の発言にも、セイはどこから突っ込んで良いのか分からなかった。

「だから、藤堂さんの約束は断って下さい」
「藤堂先生とはもう1週間も前から約束していたのですよ? 今更お断りできません」
セイは困ったように総司を見ていった。
「今日の葛きりは、1ヶ月前から決めてましたっ!」


「・・・・・・・。」
さすがのセイも何も言い返せなくなってしまった。

「良いですねっ! 藤堂さんには私から言っておきますから」
そう言うと、総司は立ち上がり、さっさと部屋から出て行ってしまった。


今日の(と言うか最近ずっと)沖田先生おかしい・・ 
おかしすぎるっ!
もしかしたら、何か悩み事でもるのかも。
よーしっ 今日葛きり食べに行った時にでも聞きださなくちゃ!




「藤堂さん」
藤堂は、これから稽古があるらしく、道場に向かって歩いていた。

「あ、総司どうしたの?」
総司の声に笑顔で振り向いた平助だったが、総司の放つ黒いオーラにたじろいでしまった。

「あ、あれ、何かあったの、総司?」

「今日の神谷さんとの約束はなかったという事でお願いします」
口元は笑っているのに目は据わっている。

「え・・う、うん。 でもどうして・・?」
「今日は神谷さんは私と出かけますので」
「じゃあ明日なら良いかな?」
「明日も明後日もこれからもずーーーーっと私との約束がありますので、今後は神谷さんを誘わないで下さいね。 絶対ですよ」
総司は平助の目を見据えて言った。

「はい・・」
何となく殺気を感じた平助は、素直に返事をしてしまった。
平助の返事を聞くと、総司は満足そうに微笑んで、その場を去っていった。

「な・・なんなの一体・・」
平助は訳が分からず、その場に立ち尽くしていた。


そろそろ巡察が始まる時間なので、総司は急いで用意をして門へ向かった。

するとセイの姿を見つけた。
まだ集合していないようだ。

「神っ・・・」
声をかけようと近づいてみたのだが、誰かと話しているようだ。

建物の陰に隠れて人物が見えない。

更に近づいてみた。


セイが話していた人物。 
それは。

最重要人物の斉藤一、その人だった。

「えー、そうなんですか? 兄上ってばそんな事してたんですね?」
と嬉しそうなセイの顔。
そのセイの頭を斉藤はよしよしと撫でている。



「神谷さんっ!!!」
思わず総司は叫んでいた。

びっくりした2人は総司を振り向いた。

「どうしたんですか、沖田先生。 そんな大声だして」
「巡察の時間だと言うのに何をしているのですかっ!!!」
そういうと、総司はセイの手を引いた。

「まだ時間はあるだろう」
セイとの楽しい会話を邪魔された斉藤は、心の中で ちっと舌打をした。

「いいえっ! ありません! それでは失礼します」
と言ってその場を離れた。


「先生??」
手を引かれているセイはもう何だか訳が分からなかった。
「痛いんですけど・・」

門まで来ると、総司はセイの手を離した。

まだ少し時間が早かった為か、1番隊は誰も来ていない。

「沖田先生?」
セイは、総司を見上げた。

「・・・・」
総司は何も言わず、下を向いている。
その表情は何か考え事をしているのか、眉間に皺を寄せている。


「先生?」
セイは総司の顔を覗き込んだ。

「・・・・ないで下さい」
「え?」

「私以外の人と仲良くしないで下さいっ!」


・・・・言ってしまった。
もうバレた。
さすがのセイでもここまで言えば分かるだろう。

「どうしてですか?」
しかしセイはきょとんとしている。

「えぇっ!? 聞きますかっ!」
「え、だって・・・」
セイはますます分からないという顔をした。

「嫌だからですっ!」
総司はきっぱりと言った。

いくら野暮天女王でもここまではっきりと言って分からないはずがない。

総司は恐る恐るセイの顔をそっと見た。


「!!」

セイは、集まってきだした1番隊の面々に手を振っている。

「あ、あの・・・ 神谷さん?」

「はい?」
セイは何事もなかったかのように笑顔で総司を見た。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


この子はもう野暮天を通り越している。

「何のお話でしたっけ?」
セイは無垢な笑顔で訪ねる。

「いえ・・・ 何でもありません。」
もうそういうしかなかった。

「あ、そうだっ! 沖田先生何か悩み事がおありなのでしょう?」
「はいっ!?」
「今日葛きり食べに行った時にでも言ってくださいね! 悩み事は人に話すだけでも気持ちが軽くなりますから」

元凶はあなたなんですけどっ!!!

喉まででかかった言葉を総司は飲み込んだ。

気づかれなくて良かったような悲しいような・・
総司はやっぱりこれからも史上最強の野暮天女王と戦う事になるのだろう。
肩をがっくりと落とした1番隊組長は、隊士達を率いて力なく京の町を歩いていた。