キリ番20000リクエスト小説
花守
「「み、見合い〜!!!!!」」
2人の大声が部屋中響き渡る。
その大声をうっとうしそうに不機嫌な顔で聞いている男1人。
大声を上げた内の1人が動揺を隠せず言葉を続けた。
「ど、ど、どうして私が?!な、なんで?!しかも相手は男だし!!!」
それに続いて隣に座っていたもう1人も声を荒げながら抗議した。
「そうですよ。どうしてお見合いなんて。
一体何を考えているんですか?」
2人の前に座っている男は少し怒りを顔に出しつつ口を開いた。
「どうもこうも、神谷に一目惚れして是非との事だ。」
その言葉に神谷と言われた小柄な少年は怒りで顔を歪め、口を開くと
「はあ?一目惚れ!!て、どうして男が?!大体こんな話最初から断って下さいよ。
男が男と見合いなんて、副長頭大丈夫ですか?
沖田先生からも何か言ってやって下さい!!」
悪態を付きながら文句を言った。
「そ、そうですよ。どうして相手は男なんですか?」
沖田と呼ばれた男も、訳が分からないと抗議する。
副長と呼ばれた人物は2人の抗議をケッと言ったように
「これもすべて神谷、自業自得だ。」
更に不機嫌になって言った。
此処は新撰組屯所。
沖田先生と呼ばれたのは、新撰組の中でも1、2の剣豪、1番隊組長沖田総司である。
そして、神谷とは1番隊平隊士、神谷清三郎。
新撰組の中でも一番小柄で、華のように愛らしい容姿の人物。
彼に思いを寄せる者は新撰組の中でも後を立たない。
副長とは、泣く子も黙る新撰組が更に黙る鬼の土方歳三。
総司と清三郎が仲良く庭先で洗濯を干していると話があると副長に呼ばれて、
いきなり清三郎に見合い話を切り出したのがこの大声の発端。
土方の言葉に清三郎はムッとした。
「は?なんで私が悪いんですか?!副長が悪いなら分かりますけど。」
土方はその言葉を聞き一瞬ムカッとした表情を浮かべるが、
直ぐに意地の悪い笑いをすると
「この間の特命の時の事で、何か思い出すことは無いのか?」
この間の特命・・・・。
清三郎は腕を組み視線を上へと向けた。
確か連絡係として特命を受けた自分は、何とか問題もなく成功させたはず。
多少、自分の好奇心で監察方に迷惑を掛けた事はまあ、結果よければ全てよしとして
お咎めは無かったのだが・・・。
うーんと考えていた清三郎は、さっぱり心当たりがないと首を振った。
「全然、訳が分からないのですが・・・。もしかして私の出すぎた行動への
罰ですか?」
怪訝そうにそう言う清三郎に、
「馬鹿か!!なんでそんな事で見合い話を持ち出すんだ!!」
土方は心底呆れながら清三郎に言った。
土方の言葉を聞いた清三郎は更に不機嫌にムスッとした顔で
「じゃあ、何でですか?」
何とか怒りを抑えながら尋ねた。
「その時お前女子姿だったよな。その時誰か知り合いになったんじゃねぇのか?」
土方も怒りを押さえ気味に尋ねた。
その土方の言葉で清三郎は、暫く考え込んでいると
「あ、いました。確か名前は・・・えーと・・・浅野さんだったけ?
親切で話し好きな人!!」
ポンと自分の掌を叩き思いだした。
その様子から土方は、大きな溜息を吐いた。
「その、浅野って奴がどうしてもお前と見合いをしたいと言ってきたんだよ!!」
その言葉を聞いて清三郎は驚きどんな人物だったか思い出す。
スッキリとしているが男らしい顔立ちで、細かい事にもよく気が付く優しい性格だった。
身に着けていたものから、ある程度身分のある武士とは思っていたが・・・。
その人から見合い話が・・・。
女の自分にと思うと、何だか恥ずかしくて照れくさくて少し顔を赤らめた。
土方はウンザリしながらこの見合い話についての経緯を説明しはじめた。
つまり、この浅野。実は連絡係として潜伏していた女子姿の清三郎に一目惚れした。
(なんとか清三郎に気に入ってもらおうと、親切にしたり話しかけたりしていたのだが
当の本人はまったくの眼中に入れて貰えなかったばかりか、存在すら忘れたれていたのは
かなり可哀想である。)
そして、その浅野と話をしているうちにポロッと新撰組の名前を出してしまい
何とか誤魔化そうと、父は元直参の医者、兄は新撰組に在籍していたが
半年ほど前に死んでしまったと嘘をついたのが事の始まり。
実は浅野という人物、会津藩の上役の息子だったのだ。
特命が終わった為、急に姿を消した清三郎をずっと探していたがまったく消息を掴めない。
(それもそのはず、初めからそんな女は存在していないのだから。)
そんな時、ふとその話を思いだし兄が新撰組に在籍していたなら何か彼女の事を
知っているのではないかと父親の上役から直接土方を呼び寄せて聞いてきたのだ。
そして、息子の嫁にと頼んできたのだ。
土方はその話を聞いて、親馬鹿にも程があると思ったが
余りの熱意に流石の土方もまさか思いを寄せている相手は男だとも言えず、
身分が違うのではと断った。
しかし、身分のある所へ養女に出すから問題ないと言う。
相手の都合もあるのではと言えば、なら見合いという形で顔を合わせたらどうか
と聞かない。当然、相手の娘が自分の身分に不満を持つはずが無いと自信満々の様子。
土方は初めからそんな娘は知らないと言わなかった事を後悔した。
新撰組にとっても、男を女装させて密偵させているなどと知られたくは無い。
まさかこんな話の展開になるとは思っていなかった土方は、清三郎が話したであろう
内容に適当に合わせてしまったのだ。
どうやって、この話を回避しようか模索していると、
初老を迎えた上役はホトホト困り果てたように
「そろそろ息子に家督を継いで貰おうと思っていたのだが、
その娘との婚姻を認めないと継がんと言い張って困っておる。
今まで不満や我侭を言った事が無い息子だったのが、何を言っても聞かんのだ。
自分でも親馬鹿だと分かっておる。その上で頼みたいのだ。」
そして、こう付け加えた。
「もし新撰組の協力を得られるのならば、今後何か有った時には力添えをする。」
その言葉は土方にとって魅力的だった。
はっきり言って、百姓だの浪人だの馬鹿にされ続けている新撰組にとって
願っても無い言葉。
今後局長を取り立てて貰うには、後ろ盾はかなり必要である。
土方はそのまま見合い話を承諾したのだ。
「ひ、酷い。私を人身御供にして・・・・。」
清三郎は話を聞いても納得が出来ずプルプルと肩を震わせている。
その態度は絶対見合いなんてするもんかと訴えている。
そんな清三郎にチラッと視線を送ると、土方はニヤっと笑った。
「お前、特命中に新撰組の話をしたそうだな・・・・。」
その言葉に思わず清三郎はギクッとした。
それは、はっきり言って失態である。
もし相手が、清三郎の存在を怪しんでいる相手だったら命は無かっただろう。
今回の捕り物にまったく関係がなく純粋に清三郎に好意を寄せていた相手だったからこそ
大事にならずにすんだのだ。
土方は含み笑いをすると
「この見合い、受けるよな。」
どすの聞いた声で静かに言った。
最早清三郎に拒否権は無かった。
項垂れる清三郎に土方は
「安心しろ。相手には紹介はするがその後の事までは責任持てないと言ってある。
会うだけあって断ればいいだけの話だ。
男が嫁ぐなんて出来るわけがない。後の事は安心しろ。」
そう言って人事のように言う。実際人事であるのだが。
安心しろと言われて安心出来る訳が無い。
清三郎は助け求める様に先程から黙っている総司にチラッと視線を送った。
自分の立場では何も言えない。
なんとか良い言い訳をと思っているのだが。
しかし横に座っている総司は、じっと下を向き黙っているばかり。
そんな総司に土方が
「お前も、異存はないな。」
上司である総司に確認した。
総司は返事をしなかった。
土方は返事が無い事を肯定と受け取ると
「日時は、1週間後。付き添いは俺だ。以上。」
そう言って、この話を終わらせた。
清三郎はトボトボと歩きながら目の前を歩く総司に視線を向けた。
総司はあれから何も言ってこない。
普段だったら、どうしようかとオロオロとしそうなのだが。
自分にお見合い話が出てきて少しぐらいは反論してくれるかもと
期待をしていたが、何も言ってくれなかった。
清三郎は思わず小さな溜息を吐いた。
(はあ・・・。沖田先生に何期待してるんだろう。
大好きな局長の今後の出世が懸かっているんだから絶対止めるはず無いのに。
でも、いつも一緒に居るんだから少しぐらい、焦るとか止めるとか
してくれてもいいのに・・・。はあ・・・・。)
そんな事を考えて総司の背を見ていても、今総司が何を考えているのか分からない。
ただ、何となく怒っているように感じられた。
何だか居心地が悪くなって、総司の背中越しに話しかけた。
「あ〜あ、お見合いなんて・・・。断るんだったら始めから断ればいいのに。
本当副長って人の事考えないですよね。」
なんとかこの場の空気を明るくしようと、笑いながら言う。
すると先程まで何も言わずに歩いていた総司は足を止めた。
清三郎も総司の動きに合わせて立ち止まる。
暫く立ち止まっていた総司が振り返ると、硬い表情で清三郎を見つめた。
「神谷さん。これは全て貴方の責任でしょう。
貴方がもう少し自覚して言葉を選んでいたら、今回のような話は出なかったはずです。
それを棚に上げてなんですか。
自分がどれだけ迷惑をかけているのかもっと自覚しなさい。」
そう言う総司の瞳は、怒りと苛立ちを含んでいた。
その態度に清三郎は胸の奥にズキンと痛みが走る。
清三郎は顔を青ざめながら
「すみませんでした・・・。」
小声で言うと、総司は清三郎を残して1人歩きだした。
それから、2人は会話をするすることも無く見合い当日を迎えた。
清三郎が見合いをする為に出て行ってから総司は1人道場で刀を振るっていた。
あれ以来清三郎に対して苛つき態度で表していた。
そしてお見合いに向かう清三郎に声をかけられても
只背を向けたまま返事をしなかった。
何故こんなにイライラするのか分からない。
新撰組にとって、大好きな近藤にとって絶好の機会とも言える。
土方が断らずに、この見合い話を持ち込んできたのも頷ける。
しかし、心から喜ぶ事が出来ない。
何故?どうして?
これは清三郎にとってもいい機会ではないか。
しかも相手は、会津藩の上役の息子。
嫁ぐ相手としては、これ程良い条件の相手はいない。
しかも向こうは、新撰組に話を持ちかけるほど清三郎に惚れているのだ。
大事にされるのは目に見えている。
普段は早く女子に戻って嫁ぐべきだと考えているはずなのに。
見合い話が持ち上がった時に、土方に実は清三郎は女子だと打ち明ける
機会だったはずなのに・・・。
だけど、だけど、そう心の中で考えれば考えるほど心がザワめき苛立ちが
自分を支配する。
そして、何も土方に打ち明けないまま見合い当日になってしまった。
何をそんなにイライラする?
自分の心に問いかけてみる。
驚きながらも顔を赤らめた清三郎の表情がイライラする。
最後には、文句を言いながらも納得している清三郎にイライラする。
清三郎が自分以外の男と見合いすると考えると・・・・。
総司は我武者羅に振っていた刀を下に垂らした。
何時も明るく元気な笑顔。
人一倍努力家で、直向な姿。
どんな状況でも、光を失わない瞳。
そして、いつも自分に微笑みかけてくれる可愛らしい表情・・・・。
幾度となく見てきたそれらは目を閉じても容易に思い浮かべる事が出来る。
総司は体から力が抜けていく感覚に陥った。
カタンと手の中から握っていた刀が滑り落ちる。
思わず自分の両手を見つめた。
小刻みに震えている。
その時総司は気が付いた。
自分は何にイライラしていたのか。
いや、イライラしていたのではない。
清三郎の存在の喪失感に只、焦っていたのだ。
自分の手の中に居た存在がするりと何処かへ行ってしまう事を恐れていたのだ。
「私・・・・神谷さんの事・・・・。」